地
球上に生息している多種多様な生物は,共通に,出生,繁殖,死亡というライフサイクルを有しますが,個々の生物を眺めてみれば,
寿命はもちろんのこと,出生から成熟までの期間や,繁殖活動期間,さらには繁殖活動後から死亡までの時間等,ライフサイクルの時間軸上の分布は様々です。
このようなタイムスケールの違いが生物間相互作用の
特性を
大きく左右することは言うまでもないことでしょう。生物現象を深く知る上で,タイムスケールは,最も大事な概念の一つと考えられます。
昨年度12月に開催された「新しい生物数学の研究交流プロジェクト(研究代表者:瀬野裕美)」における優秀賞受賞グループによる研究はこの問題
に直接取り組もうとしたものでした。 タイムスケールが 重要な概念であることは,生 態学の分野に 限られた話ではありません。 単一種個体群(たとえば,人口集団)における感染症ダイナミクスについても然りです。 たとえば,感受性ステージと感染ステージの期間長は一般には異なっており, この期間長差がダイナミクスにどのような影響を及ぼすかを明らかにすることは, 感染症伝播のダイナミクスの特性を理解するために大いに役立つと思われます。また,他の要素に比べ,極めて短いタイムスケールを有する重要な要素を内 含する現象について, 対象のダイナミクスを低次元化して議論する「準定常状態」近似に関する数学的研究が行われてきました。 生物現象におけるタイムスケールの効果による特性につ いて数学的 ないし 数理的に議論することは, 生物学・生命科学分野の理論にも寄与できるポテンシャリティがあると考えられます。 本プロジェクトでは, 生物学と数学の両分野において重要な概念 である 「タイムス ケール」をキー ワードの一つにして, 未解決問題を発掘し,生物学・ 生命科学の分野における新し い知見の獲得のための理論的手がかりの創成, 及び,新しい数理モデルの開発や解析技術の発展に寄与するためのプログラムに取り組みます。 |
1 目 的
生
物現象の数理的問題は数学者のみならず幅広い分野の関心を引き,数学の発展に寄与してきました。21世紀は生物学・生命科学の諸問題に関わる数学理論及
び
数理モデルの構築の更なる発展が期待されています。数学は,他分野の更なる発展の可能性を生み出すだけではなく,他分野から良質な問題が提供されることに
より数学自体も大きく発展する学問です。2006年5月に文部科学省科学技術政策研究所から出された,主要国の数学研究を取り巻く状況および我が国の科学
における数学の必要性に関する報告・提言書においても,今世紀,生物学・生命科学における数学の役割への期待が世界的に高まっていることがわかります。
この観点から,数学研究者には,生物学・生命科学の諸問題に対する数学的基盤を整備し,同研究分野での数学の基礎的研究を発展させ,それらを生物現象の
研究にfeedbackすることによって新しい生物学・生命科学研究及び数学研究を促進するという研究に対するインセンティブを持ち続けられる機会が求め
られています。本共同研究では,数学研究者と生物学・生命科学研究者が一堂に会し,第一線で活躍する研究者により提供される最前線の話題をシードにした
“現場”における討論により,異分野の研究者間で相互に刺激を与えるテーマ,未解決問題を発掘すると同時に,生物学・生命科学の分野における新しい知見の
獲得,及び,新しい数理モデルの開発や解析の発展,新しい数学的概念の構築を目的とし,数学研究者と他分野との分野融合研究の促進を図るものです。
2 特 色
2002--2004年に開催された“イッキ読み合宿セミナー”(幹事:齋藤保久),及び,2004--2005年に京都大学数理解析研究所にて開催され
た「生物
数学イッキ読み・研究交流」(研究代表者:齋藤保久))は,すべて,本を読むだけにとどまらず様々な議論が飛交う場と成し,生物数学の研究に新たに提起さ
れる問題の発掘や参加者同士の共同研究が発足するポテンシャルの高いものでした。その肥沃な“土壌”に,生物現象からとりあげた特定の問題とその数理モデ
ル開発という“種”をまくべく企画された
2006年度京都大学数理解析研究所共同利用研究「新しい生物数学の研究交流プロジェクト:KyotoWinter School of
Mathematical Biology」(研究代表者:瀬野裕美)が,2006年12月11〜15日に開催されました。同研究では,本共同研
究のスピリットと同じく,多様なバックグラウンドをもつ若手研究者が一堂に
会し,共通の話題についての数理モデルの開発や解析が現場で行われるプログラムが実施されました。参加予定者の多くが話題提供者と事前打合せを行い,分野
融合研究として,いくつかの新しい研究がスタートしました。参加者は数学・数理科学分野の大学院生のみならず若手研究者,一線級研究者を含み,本共同研究
の目的に合う指向が広く存在することを明示しており,本共同研究の意義を裏付けています。
本研究計画の意義は,特定の問題について数理モデルの開発や解析に関して討論を展開し,数学−他分野融合研究の可能性を追求するところにあります。昨
今,欧米で盛んに行われるようになった若手研究者対象の生物数学関連のスクール形式とはまたひと味違う,研究レベルの出席者参加型の本プロジェクトは学際
研究の発展に寄与できる新しい形態であり,本研究計画の大きな特色の一つです。2007年度開催の本研究計画は,2006年開催の上記共同利用研究の経験
を踏まえた,さらに発展したものを目指しています。
3 プロジェクト代表者・運営幹事
瀬
野裕美【代表者】
広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻
〒739-8526
東広島市鏡山 1-3-1
Phone & fax.082-424-7394
http://www.math.sci.hiroshima-u.ac.jp/˜seno/
Email.
齋藤保久【運営幹事】
Yasuhisa Saito, Prof.
Kyungpook National University
Department of Mathematics
1370 Sankyuk-dong, Buk-gu
Daegu 702-701, Korea
Email.
4 募集定員
5 実施内容・日程
特
別講演の各講師が,生物学・生命科学の分野における最前線の話題を提供します。そして,特別講演の題材に関連する文献を用いた集中
セミナーを行い,そのセミナーにおける議論により,特定の生物学・生命科学あるいは数理科学の問題を抽出します。さらに,その解決に向けての新しい数理モ
デル開発を目標にして,数理モデリング及び解析手法・解析理論を参加者相互の討論により検討しつつ,問題の意義・価値について討論を行います。その後,題
材からとりあげた未解決問題や新たに提起されるであろう諸問題について数理モデルの開発と解析をメンバーの共同研究形式で行い,新しい生物数学研究の発展
を期すためのプログラムを実施します。
本 研究集会では,昨年度の 2006年度京都大学数理解析研究所共同利用研究「新しい生物数学の研究交流プロジェクト:KyotoWinter School of Mathematical Biology」(研究代表者:瀬野裕美)と同様,特 別講演の講師をチューターとして, 参加者に特別講演の取り上げる題材に関連する文献の集中(“イッ キ読み”) セミナーをしていただきます。セミナーにおける参加者個々の分担を参加受付後に研究代表者より本研究集会開催以前に連絡させていただき,参加者各自にセミ ナーの準備をしていただきます。参 加者各自が特別講 演で取り上げられる題材の内容を極限まで理解し合うことにより,参加者同士の濃くざっくばらんな研究交流を促し,最前線の話題に潜む新たな問題の“匂い” を嗅ぎ取ろうという試み です。さらに,その後,参加者が数グループに別れ,各グループで最前線の講演内容と関連するセミナーの内容をシードにして新たな問題の発掘を行い,その問 題に 対する数理モデルの 開発および解析に取り組んでいただきます。そして,最終日,各グループの研究成果を発表していただき,コンテスト形式にて審査します(審 査員の審査により優秀グループを表彰します。いわば,ロボコンならぬ“モデコン(モデル・コンテスト)”です。 もちろん,決して,競い合うことを奨励するものではありません)。 それらの研究成果については,京都大学数理解析研究所の講究録としてまとめることを目指します。スケジュールの概要は以下の通 りです:
午
前 |
午
後 |
|||||
8
月27日(月) |
受
付・説明 |
セッ
ション1 |
セッ
ション2 |
懇 親会 | ||
8
月28日(火) |
セッ
ション3 |
セッ
ション4 |
||||
8
月29日(水) |
セッ
ション5 |
懇
談会 |
Group
discussion |
|||
8
月30日(木) |
Group
pre-presentation |
Group
discussion |
||||
8
月31日(金) |
Final
presentation |
Closed session |
■ Final presentation: 本モデルコンテスト。審査員として研究者を招待。
■ Closed session: モデルコンテストの結果発表。優秀グループの表彰。
1. 高田壮則 (北海道大・地球環境科学研究院)「植物特有の現象のモデリング」 2.【招待講演】
吉川 満(関西学院大) 松岡功(広島大)登坂千尋(早稲田大)「タイムスケールの違いが個体群動態に及ぼす影響」
2006
年度「新しい生物数学の研究交流プロジェクト:Kyoto Winter School of
Mathematical Biology」優秀賞受賞グループ
3. 梯 正之(広島大・大学院保健学研究科) 「理論疫学 --- 感染症流行の個体群動態モデルによる研究のこれまでと今後の課題」 4. 齋藤保久(Dept. of Math., Kyungpook National Univ., Korea) 「個体群動態モデルの数学および時間遅れ」 5. 中丸麻由子 (東京工大・社会理工学研究科) 「他の生物では見られない人間特有の社会行動・社会現象をどうモデル化していくのか?」 |
6 参加申し込み
参加申込書を電子メイルにて,運営幹事 齋藤保久(