自
然科学は,自然の成す「構造」を理解する学問といってよいでしょう。
自然科学では,「構造」を理解するために,
対象をいろいろな観点から捉え,
モデリングするというアプローチをとります。
私たちは,モデリングによる研究の積み重ねによって,
自然現象への科学的理解を深めてきたともいえます。 生物現象に対する数理モデリングは, 生物学的知見と数理的解析を元にして, 生物現象に潜む構造を明らかにしていこうとする理論的手法です。 この手法は,生物現象そのもの,あるいは,観測や実験によって得られた事実を基に, 数理モデルを立て,解析を行い,結果を議論するというものですが, この一連のプロセスの中で忘れてならないのは, 生物現象と数理モデルの間に存在する必然的な乖離です。 その乖離を理解した上で,数理モデルから得られる結果と生物現象とのギャップを科学的に考察し, それによって, 潜 む論理を彫りだしてゆく ことが重要です。 得られた結果が現象と全くマッチしない場面に遭遇することもありますが, そうした状況こそが数 理モデリングの醍醐味 であり, 威力を発揮する場面であるともいえます。 そのような場面で大いに科学的な知恵を絞ることによって, 生物現象の本質をなす「構造」を発見することもありえます。 このプロセスこそが 数 理モデリングの本質 であり, 乖離を越えて現象と数理モデルを関係づける理合(りあい)というセ ンス です。そして, 数理の眼で観なければ知り得なかった構造が, 生物現象の本質をなすような発見に遭遇したとき, 私たちの “知恵”のプロセス が主役に躍り出ます。 数理モデリングによる研究の発展には, 数理モデリングに関わる 数 理の発達 と, セ ンスの向上 が欠かせません。 本研究集会では,「構 造」 をキーワードの一つにして, 生物現象についての新しい知見の獲得を目的とした理論的手がかりの創造, 及び,新しい数理モデルの開発や解析技術の発展に寄与するためのプログラムに取り組みます。 |
1 目 的
生
物現象の数理的問題は数学者のみならず幅広い分野の関心を引き,
数学の発展に寄与してきました。21世紀は生物学・生命科学の諸問題に
関わる数学理論及び数理モデルの構築の更なる発展が期待されています。
数学は,他分野の更なる発展の可能性を生み出すだけではなく,
他分野から良質な問題が提供されることにより数学自体も大きく
発展する学問です。そして,他分野と数学の間の学際的あるいは
融合的な研究分野が数学と他分野の橋渡しをしているばかりでなく,そこ
から新しい数理的問題も生まれてきました。
モ
デリングとは,一言でいえば科学的な『も
のの捉え方』で
す。
生物学・生命科学の諸問題に対する数学的基盤を整備し,学際・
融合分野における数理的研究を発展させ,それらを生物
現象の研究にfeedbackする一連の過程はすべてモデリングといえます。
モデリングの観点から新しい
生物学・生命科学研究及び数学研究を促進・創発するという
インセンティブは,これからますます意義が高まるでしょう。
本共同研究では,数理分野,生物学・生命科学分野の若手研究者が一堂に会し,
第一線で活躍する研究者により提供される最前線の話題をシードにした“現場”における討論により,学際的・融合的研究分野において
発展性が高いテーマ,未解決問題を発掘すると同時に,
生物学・生命科学の分野における新しい知見の獲得,及び,
新しい数理モデルの開発や解析にかかわる数理的な理論の展開,
新しい数学的概念の構築を目的とし,数理分野の研究者と他分野との
分野融合研究の促進を図るものです。
2 特 色
2002
年-2004年に開催された「イッキ読み合宿セミナー」
(幹事:齋藤保久),
2004年,2005年に京都大学数理解析研究所にて開催された「生物数学イッキ読み・
研究交流」(研究代表者:齋藤保久)は,すべて,文献を読むだけにとどまらず様々な議論が飛交う場と成し,
生物数学の研究に新たに提起される問題の発掘や参加者同士の共同研究が
発足するポテンシャルの高いものでした。 その肥沃な“土壌”に,
生物現象からとりあげた特定の問題とその数理モデル開発という“種”を
まくべく,2006
年度京都大学数理解析研究所共同研究「新しい生物数学の研究交流プロジェクト:KyotoWinter School of
Mathematical Biology」(2006年12月11〜15日,研究代表者:瀬野裕美),および,2007
年度京都大学数理解析研究所共同研究「新しい生物数学の研究交流プロジェクト:Kyoto Summer Research Program in
Mathematical Biology Next Wave」(2007年8月27〜31日,研究代表者:瀬野裕美)
が開催されました。
これらの共同研究では,多様なバックグラウンドをもつ若手研究者が一堂に会し,
共通の話題についての数理モデルの開発や解析が現場で行われるプログラムが
実施されました。
参加予定者は話題提供者(セッションオーガナイザ)と事前打合せを行い,分野融合的研究として,
いくつかの新しい研究もスタートしました。
参加者は数学・数理科学分野の大学院生のみならず,若手研究者,
一線級研究者を含み,本共同研究の目的に合う指向が広く
存在することを明示しており,その意義を裏付けています。
本研究計画の意義は,特定の問題について数理モデルの開発や解析に関して討論を展開し,
数学−他分野融合研究の可能性を追求するところにあります。
昨今,欧米で盛んに行われるようになった若手研究者対象の生物数学関連のスクール形式とはまたひと味違う,
研究レベルの出席者参加型の本プロジェクトは学際研究の発展に寄与できる新しい形態であり,
本研究計画の大きな特色の一つです。
2008年度開催の本研究計画は,2006年,2007年開催の上記共同研究の経験を踏まえた,
さらに発展したものを目指しています。
3 プロジェクト代表者・運営幹事
瀬
野裕美【代表者】
広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻
〒739-8526
東広島市鏡山 1-3-1
Phone & fax.082-424-7394
http://www.math.sci.hiroshima-u.ac.jp/˜seno/
Email.
齋藤保久【運営幹事】
Yasuhisa Saito, Research Prof. (BK21)
Department of Mathematics
Pusan National University 【2008年9月より異動】
Pusan 609-735, Republic of Korea
Email.
4 募集定員
5 参加費
6 実施内容・日程
各セッションのオーガナイザが講師として,
生物学・生命科学の分野における最前線の話題を提供する講演を行います。
そして,各セッション毎に,講演の題材に関連する文献を用いた集中セミナーを行い,
そのセミナーにおける議論により,特定の生物学・生命科学あるいは数理科学の問題を抽出します。
さらに,その解決に向けての新しい数理モデル開発を目標にして,
数理モデリング及び解析手法・解析理論を参加者相互の討論により検討しつつ,
問題の意義・価値について討論を行います。
本研究集会の後半では,
未解決問題や新たに提起されるであろう諸問題についての数理モデルの開発と解析を
参加者グループによる共同研究形式で行う,
新しい生物数学研究の発展を期すためのプログラムを実施します。
本研究集会では,過去の京都大学数理解析研究所共同研究2006 年度「新しい生物数学の研究交流プロジェクト:KyotoWinter School of Mathematical Biology」(2006年12月11〜15日,研究代表者:瀬野裕美),および,2007 年度「新しい生物数学の研究交流プロジェクト:Kyoto Summer Research Program in Mathematical Biology Next Wave」(2007年8月27〜31日,研究代表者:瀬野裕美) 同様, セッ ションオーガナイザをチューターとして , 各セッションの取り上げる題材に関連する文献の集中(“ イッキ読み ”) セミナーを参加者自身の参加によって行います。 セミナーにおける参加者個々の分担を参加受付後に研究代表者より本研究集会開催以前に連絡させていただき, 参加者各自にセミナーの準備をしていただきます。 参 加者各自が各セッションで 取り上げられる題材の内容を極限まで理解し合うことにより, 参加者同士の濃くざっくばらんな研究交流を促し, 最前線の話題に潜む新たな問題の“匂い”を嗅ぎ取ろうという試みです。 さらに,その後,参加者が数グループに別れ,最前線の各セッション内容とそれに関連するセミナーの内容を「シード」にして, 各グループで新 たな問題の発掘を行い, その問題に対する数理モデルの開発および解析に取り組んでいただきます。 そして,最終日,各グループの研究成果を発表していただき, コンテスト形式にて審査します(招待審査員の審査により優秀グループを表彰します。 いわば,ロボコンならぬ“モデコン(モデル・コンテスト)”です 。 もちろん,決して,競い合うことを奨励するものではありません )。 それらの研究成果については, 京都大学数理解析研究所の講究録としてまとめることを最初の目標とします。 予定スケジュールの概要は以下の通りです:
午
前 |
午
後 |
|||||
12
月08日(月) |
受
付・説明 |
セッ
ション1 |
セッ
ション2 |
懇 親会 | ||
12
月09日(火) |
セッ
ション3 |
セッ
ション4 |
||||
12
月10日(水) |
セッ
ション5 |
懇
談会 |
Group
discussion |
|||
12
月11日(木) |
Group
pre-presentation |
Group
discussion |
||||
12
月12日(金) |
Final
presentation |
Closed session |
■ Final presentation: 本モデルコンテスト。 審査員として研究者を招待。
■ Closed session: モデルコンテストの結果発表。 優秀グループの表彰。
1.稲葉 寿 (東京大・大学院数理科学研究科) 「感染症の数理モデル」 2.【招待講演】
井磧直行(総研大)岩見真吾(静岡大) 関口卓也(東工大)本間 淳(京都大)「相互作用構造は異なる毒性進化を促進するか」(仮題)
2007
年度「新しい生物数学の研究交流プロジェクト:Kyoto Summer Research Program in Mathematical
Biology Next Wave」優秀賞受賞グループ
3.高須夫吾 (奈良女子大・理学部情報科学科) 「個体性を維持したモデリング」 4.西森 拓 (広島大・大学院理学研究科)「蟻の採餌ダイナミクスと数理モデリング」 5.巌佐 庸 (九州大・理学研究院生物科学部門)「生物学での確率現象:野生生物の絶滅リスクと発ガンプロセスを例にとって」 |
7 参加申し込み
参加申込書を電子メイルにて,運営幹事
齋藤保久()までお送り下さい。