組合せ論セミナー

 


第41回 2013年5月17日 16:30〜18:00

見村万佐人(東北大学)「有限ケーリーグラフの多分割等周定数に関する普遍的不等式
(Universal inequalities on multi-way isoperimetries of finite Cayley graphs) 」

有限正則グラフ G の(通常の)等周定数 h_2(G) とは,グラフの頂点集合 V の(空でない) 2 分割 (A_1,A_2) を動かすとき, |A_iの辺境界| を |A_i| で割った量の i=1,2 での最大値の分割での最小値をとることで定義される.ここで正規化はしていない.2≦n≦|V| なる整数 n をとるとき,グラフの頂点集合の(空でない)n 分割で同様のことを考えることで,G の n 分割等周定数 h_n(G) が定義される.h_n(G) は G のラプラス作用素の第 n 固有値(0 を第 1 固有値とする)λ_n(G) と関連することが知られており,「チーガー型の不等式」と呼ばれている(n=2 のときは Alon--V. Milman の著名な結果, 一般の場合は Lee--Gharan--Trevisan による最近の結果による).

h_n(G) は n について単調非減少だが,一般に h_{n+1}(G) は h_n(G) に比べいくらでも大きくなりうる.藤原耕二は,“グラフ G が連結ケーリーグラフの場合はこのようなことはないのではないか”,という問題を提起した.本講演では,この藤原耕二の問題の,講演者による定量的な解決 をお話ししたい(肯定的に解決されたのか否定的に解決されたのか,も講演中に説明したい).より具体的には,有限連結ケーリーグラフに対 し,h_n と h_{n+1} の間に,グラフの次数に依らないある普遍的な不等式が成り立つことを証明した.この不等式から,任意の n≧2 に対し,有限連結ケーリーグラフの列 {G_m}_m において「inf_m h_n(G_m) が正である」ことと「inf_m h_2(G_m) が正である」ことの同値性が従う.ここで G_m の次数が一様有界である,という条件は必要ない.

本講演では,上記の普遍的不等式の具体的な形やその意味するところ,有限連結ケーリーグラフ G と n≧2 に対して h_n(G) と h_{n+1}(G) の間に(定量的な)ギャップがあるときには G がある種の対称性をもつこと,を主に解説したい.後者は,スペクトル的な数量からグラフの形を推定する,というタイプの逆問題に該当する結果とみなせる. 並行して,等周定数を辺境界ではなく(対称的な)頂点境界を用いて定義して得られる,「(多分割)頂点等周定数」の場合についても議論したい.