研究課題

概略

賭け事の研究に端を発する確率論は、現代数学の流れの中で確率解析(無限変数の微積分学)として大きく発展しています。一方、確率論における代数構造や組合せ構造の 研究が進み、量子確率論(非可換確率論)として幅広く展開しています。私の研究は、統計的性質の起源を非可換性に求めることに動機づけられたもので、主に数学的興味のおもむくままに研究を進めています。一方で、人文社会系も含む異分野研究者との研究交流を通して、さまざまな問題意識やアプローチを確保しています。 たとえば、ネットワーク科学との関連研究はその方向にあります。

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主な研究課題

(1) 量子確率論(非可換確率論)

コルモゴロフ流の伝統的な確率論では、確率変数を確率測度空間上の可測関数として定式化するので、確率変数の全体は可換な*代数としての代数構造をもちます。 確率変数の平均値(期待値)は、その可換*代数上の正値線形関数となります。 確率変数に関連する様々な統計量は、この可換*代数と正値線形関数によって与えられます。この観点を一段高い立場で眺めれば、可換とは限らない一般の*代数に対して確率論が展開することで、コルモゴロフ流の確率論を特別な場合として含む一般の理論体系が浮かび上がってきます。これを私たちは「量子確率論」と呼んでいます。もともと量子論の確率解釈の問題に 起源がありますが、今では量子論とは関係なく、数学理論としてどんどん発展しています。

量子確率論では、多様な非可換性を反映して「独立性」の諸概念が導入され、それに付随するさまざまな中心極限定理が議論されます。この線上には、さまざまな独立性に付随する量子確率過程論が展開されます。量子確率論の枠組みでは、古典確率変数が「量子分解」され、従来は見ることができなかった背後の非可換的構造があらわになります。これによって、組合せ論的なアプローチや直交多項式との関連付けが可能になり、量子確率論の深化につながるだけでなく、古典論への貢献も期待できます。

(参考書) 明出伊類似・尾畑伸明: 量子確率論の基礎, 牧野書店, 2003.
Akihito Hora and Nobuaki Obata: Quantum Probability and Spectral Analysis of Graphs, Springer, 2007.

(2) ネットワーク数理

頂点とその隣接関係で定義される数学的対象をグラフと言いますが、付加的構造(辺の向き、辺加重、頂点加重など)をもつものをネットワークと総称します。複雑ネットワークの名の下に、多様な分野が出会う典型的な境界領域として急速に発展しているので耳なじみがあることでしょう。

ネットワークを研究する上で、スペクトル構造は一つのキーテーマです。量子確率論で培った非可換解析の諸手法を駆使して、ネットワーク・スペクトルを明らかにする新しいアプローチを開拓してきました。関連して、ネットワーク上のダイナミクス(振動子系・マルコフ連鎖・量子ウォークなど)の挙動がスペクトル構造から明らかになります。さらに、成長するネットワークやランダムネットワークのスペクトルの漸近挙動やそれによるネットワークの再構成問題に取り組んでいます。

(参考書)著書を準備中です。

(3) 無限次元確率解析

いわゆる伊藤解析ではブラウン運動に基づく確率積分が基本的な役割を演じますが、ホワイトノイズ理論の導入によって、確率積分は超関数に値をとるホワイトノイズ積分として定式化されます。Hudson-Parthasarathy が導入した量子伊藤解析でも同様であり、消滅過程・生成過程・個数過程の3つの量子確率過程に基づく量子確率積分が量子ホワイトノイズによる作用素値積分となります。量子ホワイトノイズは、確率解析を展開するうえで根本にあって、量子確率過程の性質を統一的に議論するためのキーコンセプトとなっています。

マクロ系における散逸の起源は、統計力学ではミクロ系の運動方程式のスケーリング極限(粗視化)として、確率論では独立な確率変数列に対する中心極限定理によって説明されます。 そのようにして得られるマクロ系の運動方程式は、典型的には量子確率微分方程式となり、量子確率解析の重要なターゲットです。非線形モデルをカバーするために、ホワイトノイズの高次巾(より一般には非線形関数)をうまく取り込む理論体系を構築し、量子ホワイトノイズ方程式の一般論を展開することを目標にしています。

参考書)

  • Nobuaki Obata: White Noise Calculus and Fock Space, Lecture Notes in Mathematics Vol.1577, Springer, 1994.
  • Un Cig Ji and Nobuaki Obata: Quantum white noise calculus and applications,(分担執筆) Real and Stochastic Analysis (Malempati M. Rao, Ed.), Chapter 4,World Scientific, 2014.

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応用数学連携フォーラム

数学と諸科学との連携を深め、学際研究や融合研究の萌芽を育てることをめざしています。2007年9月に発足して以来、多くの方々の賛同を得て少しずつ活動の輪を広げています。異分野研究者の出会いの場としてワークショップなどを開催しています。

http://www.dais.is.tohoku.ac.jp/~amf/

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ジャーナルの編集委員

Complex Analysis and Operator Theory (CAOT) (Birkhauser) Vol.4 (2010) ~
http://www.springer.com/birkhauser/mathematics/journal/11785"

Infinite Dimensional Analysis, Quantum Probability and Related Topics (IDAQP) (World Scientific) Vol.1 (1998) ~
http://www.worldscinet.com/idaqp/idaqp.shtml

Stochastic Analysis and Applications (Taylor & Francis) Vol.20 (2002) ~
http://www.tandf.co.uk/journals/titles/07362994.asp

Interdisciplinary Information Sciences(GSIS Tohoku University) Vol.12 (2006) ~ Editor; Vol.14 (2008)~ Editor-in-Chief
http://www.is.tohoku.ac.jp/publication/IIS.html

Probability and Mathematical Statistics (Kazimierz Urbanik Center for Probability and Mathematical Statistics) Vol.31 (2011) ~ Vol. 35 (2015)
http://www.math.uni.wroc.pl/~pms/index.php"

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