大学院において担当する研究指導においては、
- 数理生物学
Mathematical Biology,もしくは,生物数理
Biomathematical Sciences
における数理モデル解析
- 生物・社会現象を数理的にとらえること
- 設定された科学的問題に関する数理モデリングを行なうこと
- 生物・社会現象に関する数理モデルの数理モデリングを理解すること
- 数理モデリングの数理的解釈,数理的発展により,より一般的,あるいは,より基礎的な数理モデリングを行うことによって基礎的数理モデルを構成すること
- 数理モデルに対して,設定された科学的問題についての的確な数理的解析をデザインして実施すること
- 数理モデルの解析結果の科学的な意味について議論すること
- より発展的,あるいは,より応用的な数理モデリングへの進展について議論すること
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を展開するために,関連する数理生物学研究,生物数理研究の文献を輪読するとともに、関心をもつ現実の生命・社会現象に関するテーマ,あるいは,生物数理的数理モデルを各自が選び、個々が実際にその数理モデリング,数理モデル解析を進めるための各自の数理的能力の育成を目指します。
研究指導においては,生命・社会現象を「記述」したり「説明」することを目的とする数理モデル解析ではなく,
- 生命・社会現象に関する数理モデリング・数理モデル解析に始まる数理モデルの数理的基礎研究,
あるいは,
- 生命・社会現象の科学的探究のための指標の提供や問題提起を目的とした数理モデル解析
を主眼としています。つまり,
- 現実の生命・社会現象の真理を科学的に議論するための問題点を明らかにしたり,問題提起を行うこと
- 研究の展開のための礎となること
を視野に入れた数理的・理論的な生命・社会現象の研究のための数理モデル解析を行います。したがって,考えようとする科学的問題に関して主要と考えられる要因を選択的に抽出し,可能な限り単純な構造をもつ数理モデリングによって,
- (定性的)科学的議論を行うための数理モデル解析
- より具体的な科学的問題に関する数理モデリングに発展させることのできるような基礎数理モデル解析
- 理論科学的議論の体系化に関わるような数理モデル解析
に取り組みます。 特定の生命・社会現象の分野や特定の数理的分野にとらわれるのではなく,数理生物学や生物数理における,数理モデリング,数理モデル解析,生物数理における数理モデリング,数理モデル解析という過程における感性の育成を目指します。[卒業研究[現在は担当なし]のページも参照してください]
大学院における研究では,実際の野外研究や実験研究によって得られたデータや知見を元にした理論的な研究を行うことになります。必要性と可能性があれば,自らが野外観測や実験を行うこともありえますが,基本的には,自分で科学的な観測・実験を行うことを目的とはしていません。また,しばしば,実際の野外観察・観測あるいは実験が不可能であるような対象であっても,理論的な数理モデリングによる(思考実験的)研究が可能であり,その結果が,実際的な野外観察・観測や実験の指針として役立つ可能性もあります。一方では,理論科学的な問題を数理モデル解析によって議論することは,科学的理論の体系化に役立つばかりでなく,生命・社会現象の新しい研究を生み出す可能性をも秘めています。また,カオス理論のように,数理生物学的な数理モデル研究が,数学や物理学の理論的研究の発展に寄与してきた例も少なくありません。
数理モデリングとは,一言で述べるなら,生命・社会現象に関する仮定や仮説を数理的に解釈もしくは表現することによって数理モデルを構築する過程を指します。生命・社会現象に関する仮定や仮説の適切性や意味解釈をするためには,生物学的・社会科学的な知識とセンスが要求されます。一方,数理的な解釈や表現には,数理的な知識とセンスが要求されます。すなわち,数理モデリングは,生物学的・社会科学的知識だけ,あるいは,数理的知識だけでは不可能であり,それら二つが相まって成立する過程です。しかし,生物学的知識と数理的知識がそれぞれ揃ったとしても,必ずしも,適切な数理モデルを構成することができるとはいえません。生物学的知識と数理的知識を,数理モデルの構成という目的の下に適切に統合するという独特な過程が必要だからです。 昨今,生物学研究に携わる若手研究者がしばしば数理モデルによる考察を気軽に研究に取り入れている場合に,不適切な数理モデリングとなっているのは,数理的な知識やセンスの不十分さが原因というよりも,そのような数理的知識・センスの統合における不十分さが原因である場合が多いと思われます。 数学や物理学に関わる若手研究者の中には,数理生物学的研究に関心を持つ人も少なくありませんが, 数理生物学的研究に対して高い壁のようなものを感じられていることも多いのは, 数理モデリングにおいて要求される生物学的知識・センスによるものと考えられます。大学院の本研究指導においては,生物学的知識と数理的知識を,数理モデルの構成という目的の下に適切に統合するという独特な過程に重心をおいており,学んでゆく勉学においても,生物学や数学の知識それらそのままを学ぶだけではなく,生物学的知識・センスや数理的知識・センスを数理モデリングという観点から捉えるという点でかなり学際的,応用数理的な側面が強くなります。生命・社会現象に関わる研究においても,応用数理的,数理生物学的研究が意義をもつ分野,テーマにはまだまだ開発途上なものが多く,上記のような数理モデリングの感性を持つ研究者の育成を目指すことは,科学発展にとって十分に実りあるものと考えています。
大学院の研究指導の位置づけについては,次のように考えています:
- 博士課程前期[修士]••••
研究に必要な技術・知識の取得,その応用を通じて,個人の能力や感性の向上を図るためのトレーニングを行う;
- 博士課程後期 ••••
個人の研究能力を高める。
ここで,「能力」や「感性」と表しているのは,特定の研究課題についての単なる知識や技術ではなく,思考能力に関わる経験によって培われる一般的な人間としての能力を指しています。一方,「研究能力」と表しているのは,研究活動を展開する上での様々な能力を総称したもので,具体的には,生物数理や数理生物学の研究者としての経験の蓄積ともいえます。博士課程前期,後期ともに,指導学生とは,共同研究者として,一緒に学び,研究を展開していくことによって学生への可能な限り質の高い経験を提供していきたいと考えています。
- セミナー等:
- 博士課程前期[修士]1年目においては,特に,セミナーを中心として数理生物学における数理モデリングの生物学的理論,数理的理論・手法の基礎を学ぶことを主とします。セミナーで輪読する文献に関しては,学生が関心を持つ分野を考慮しつつ,学生と相談の上決定します。
- 博士課程前期1年目年末頃に修士学位論文の最終的なテーマを選ぶための期間を設け,そのテーマを具体的に絞るための個別のガイダンスを進めます。修士学位論文のテーマが決まった後,そのテーマに関する数理モデリングに関わる個別のセミナーを行うための文献を決め,その文献セミナーと並行して,テーマに関する数理モデリング,数理モデル解析を進めつつ修士学位論文を作成してゆきます。
- 博士課程後期における,特に,初期においては,博士学位論文の分野やテーマにこだわることをあえて避け,できるだけ広い視野から生命現象を捉えることができるような科学的態度を育成することにこだわりたいと思います。セミナーとしては,
- 論文紹介による定期的セミナー
- 特定の専門書もしくは論文による定期的な勉強会,あるいは,それらに代わる経験が得られると考えうる専門的なディスカッション
は必須なものとして開くことになります。基本的には,文献[専門書・論文]による勉学を定常的に進めながら,(博士学位論文のテーマにこだわらないで)何らかのテーマを自ら選んで,自らがその研究を進め,深めていくことになります。文献によるセミナー等については,基本的に,学生との相談の上で詳細を決定しますが,専門書もしくは論文による勉強会の内容として,数理生物学や理論生物学,あるいは,生物学に関する文献の講究と,応用数理における数理的内容に関する文献の講究という二つを定期的に行うこともありえます。学部卒業研究[現在は担当なし]や博士前期課程の学生の研究やセミナーにも関わることによっても,数理的研究の実習を重ね,数理生物学的,応用数理的研究の知識や感性を養ってもらう予定です。
学外における学会や研究会,公開セミナーなどへの出席,参加は,自主的にどんどんと行ってもらうことを積極的に勧めています。また,近年,応用解析に関する若手育成のための国際的な集中コースがしばしば国内外で開かれており,そのようなコースや,国内外の学会・研究集会などへの出席,参加も是非勧めたいと思います。また,言語の壁は否定しがたいものですが,研究においては,国籍に関係なく,実りある交流が可能です。物怖じなく,気軽に,海外の研究者との研究交流やアドバイス依頼なども自ら行ってもらうことを勧めます。そのための最低限のマナーなども経験として学んでもらいたいと思います。
- 学位論文:
学位論文は,修士号,博士号に関わらず,日本語による論文概容を添付し,本稿は可能であれば英文でまとめ,学術雑誌への投稿を最終的な目標とします。
- 前提とする知識など:
特に前提とはしません。生物学や生命・社会現象の知識は必ずしも必要ではありませんが,生命・社会現象,もしくは,数理モデリングへの関心は必須です。論文作成は例えばLaTeXを用いて行い,数理モデルの数理的解析においては,数学的手法とコンピュータによる数値計算を応用しますが,それらに必要な知識等は個々に必要に応じて学ぶことになります。この点で,新しい課題の勉強に取り組む主体性は必須となります。
- 学生に期待すること
以下,大学院で指導することになった[なる]学生に期待したいことを並べます:
- 博士前期[修士]課程学生について:
- 大学院2年間の学生生活で得られる経験を自分の人生にとって有意義なものにしようという闊達性
- 生命・社会現象の数理モデリング,および,数理モデル解析による数理生物学的な生命・社会現象の考察への関心
- 応用数理の一部としての数理生物学を学ぶ者として,自ら視野を広げようとする思考の柔軟性や社交性
- 数理の勉強を自ら進められる主体性
- 一つの作品としての修士論文を仕上げるための忍耐力と体力・精神力
- 博士後期課程学生について:
上記の博士前期課程学生に対することに加えて,
- 新しい研究成果や数理モデリングに対して関心を持ち,それらを学ぶことに躊躇しない積極性
- 応用数理関係,生物学関係などの研究者との交流に積極的に参加することに意義や面白さを見いだせる社交性
- 博士後期課程学生としての経験を自分の人生にとって有意義なものにしようという人生に対する主体的な姿勢
- 博士前期課程学生や学部学生との積極的な交流を通して自らも学べるだけの精神的余裕
- 自分の研究や勉学について,積極的に他人との議論をすることによって素直に自分を伸ばそうとする向上心
- 自分の研究についての責任感
大学院(特に博士課程前期)における研究指導の詳細は,学部卒業研究指導とその過程や目標においてかなり重複しており,また,研究テーマの特徴も同卒業研究指導の過去の履歴が参考になると思いますので,是非,
卒業研究のページも参照して下さい。
指導教員として大学院学生を受け入れるか否かに関しては,大学院入学後にも培われていくことを期待する上記の項目以前に,重要と考える(かなり)基本的な事項がありますので,大学院博士課程前期および同後期で瀬野を指導教員として希望する場合は,是非,を参照して自分の進学志望について検討・確認して下さい! |
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