拙書をご案内申し上げます。 直接に生態学に関わる内容ではありませんが,生態学関連の数理モデルに も古典的に応用されてきた確率過程の一つ,分枝過程の専門的入門書として 出版しました。


【書 名】「姓の継承と絶滅の数理生態学 --- Galton-Watson分枝過程によるモデル解析」
【著 者】佐藤葉子・瀬野裕美
【出版社】京 都大学学術出版会
【発行日】2003(平成15)年3月5日
【総頁数】234頁
【定 価】3,200円(税別)
【ISBN】4-87698-612-6


【概  容】

 本書は,学際研究分野としての数理生態学の観点をとりいれ て,応用数理分野である確率過程のなかの分枝過程(また,その中で も最も基本的なGalton-Watson分枝過程)を応用した数理モデルの解 析によって,姓の存続性や絶滅性,さらに,多様性に関する数理的な 考察を試みるための,また,試みた道筋を,できるだけ丁寧にまとめ ようとしたものです。数理生態学の観点の導入については,とりわけ, 姓の存続性の検討に関して,出生率や出生性比を陽に含む数理モデル の解析によって考察している点に顕著です。日本の姓の多様性や存続 性・絶滅性に関する数理的な考察を本書のように行った研究は他には ないと思います。
 姓の問題は,社会的あるいは文化的な要素を抜きには考察できない ことは当然ですが,理論的な扱いとして,本書のようなアプローチも 今後の研究にとって有意義な面があることを信じたいと思います。
 また,分枝過程には,物理現象,生物現象,社会現象などの理論的, 数理的研究に多様な形で応用されてきた歴史もあります。そうした理 論的な研究に関心をもつ学生や研究者にとっての入門書の一つたりう れば,それ以上の喜びはありません。

【内容目次】

はじめに
分枝過程とは
第I部 姓の多様性と継承過程の数理モデリング
第1章 姓の多様性の尺度
 Simpsonの多様度指数; Shannon-Weaver関数; 多様度指数とZipfの法則
〈トピック〉国立大学職員録の姓統計
第2章 Galton-Watson型分枝過程による姓の継承
 一種系モデル; 二種系モデル
〈トピック〉継承者とは
〈トピック〉Henry William WatsonとFrancis Galton
第3章 年齢依存型分枝過程による姓の継承
 仮定と定義; 時刻tにおける継承者の数; 時刻tで存在するk世代目の継承者数;
 継承者数に関する母関数F(s,t)の性質; 時刻tにおける継承者数の期待値;
 継承者数の期待値M(t)の性質
〈トピック〉各国における夫婦の姓
〈トピック〉分枝過程の現象例
第4章 姓の継承における性構成の効果
 継承者数に関する確率の再定義; 性差のあるランダムな継承者の選択
 子の数が幾何分布にしたがう場合; 二種系モデルにおける性差の導入
〈トピック〉各国における子の姓
〈トピック〉姓でなく父称を使うアイスランド
〈トピック〉父方第一姓と母方第一姓を継承するスペイン
第II部 数理モデルの応用
第5章 日本の姓の多様性
 日本における姓の頻度分布; 日本における姓の多様性
〈トピック〉電話帳を使って姓分布の傾向を探る
第6章 日本の姓の多様性
 姓の存続性評価; 統計データの利用上の仮定; 統計データの処理;
 姓の最終絶滅確率の評価; 姓の存続性と出生性比;
 姓の存続性と未婚率; 幾何分布にしたがう次世代継承者数
〈トピック〉姓の継承とジェンダー
結び
付録A 確率論の基礎概念; 付録B 積率母関数f(t)の特性;
付録C 組み合わせの補助定理とs_{n}; 付録D s_{n}に対する母関数;
付録E 母関数f_{j}(t); 付録F F(0,t)と最終絶滅確率dの関係;
付録G 1920年の米国における姓の存続性; 付録H Taylor展開(Taylorの定理);
付録I 生命保険各社による姓ランキング
参考文献
索  引

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