この卒業研究においては,生命現象の科学的探究のための指標の提供や問題提起を目的とした数理モデル解析を主眼とします。 つまり,現実の生命現象の真理を科学的に議論するための問題点を明らかにしたり,問題提起を行ったり,あるいは,研究の展開のための礎となったりするような,数理的・理論的な生命現象の研究のための数理モデル解析を行います。 考える生物学的問題に関して主要と考えられる要因を選択的に抽出し, 可能な限り単純な構造をもつ数理モデリングによって, (定性的)生物学的議論を行うための数理モデル解析,あるいは, より具体的な生物学的問題に関する数理モデリングに発展させることのできるような基礎数理モデル解析, または,理論生物学的議論の体系化に関わるよう な数理モデル解析に取り組むことになります。 「数学における生物数学」や「生物学における数理生物学」のいずれかに限定されるものではありません。
この卒業研究では, 実際の野外研究や実験研究によって得られたデータや知見を元にした数理的・理論的な研究を行うことになります。 しばしば,実際の野外観察・観測あるいは実験が不可能であるような対象であっても, 理論的な数理モデリングによる(思考実験的)研究が可能であり,その結果が,実際的な野外観察・観測や実験の指針として役立つ可能性もあります。 また,一方では,理論生物学的な問題を数理モデル解析によって議論することは,生物学的理論の体系化に役立つばかりでなく, 生命現象の新しい研究を生み出す可能性をも秘めています。 また,カオス理論のように,数理生物学的な数理モデル研究が,数学や物理学の理論的研究の発展に寄与してきた例も少なくありません。
この卒業研究においては,生物学的知識と数理的知識を,数理モデルの構成という目的の下に適切に統合するという独特な過程に重心があり,学んでゆく内容も, 生物学や数学の知識そのままを学ぶだけではなく,生物学的知識・センスや数理的知識・ センスを数理モデリングという観点から捉えるという点がかなり特徴的です。 それは,数学とも生物学とも関わる,まさに学際的な観点です。
前期には,数理モデリング,数理モデル解析の基礎に関する数理生物学の文献輪読のセミナーを行います。
[このセミナーで輪読する文献の最終決定は,登録者らと相談の上で行います。
文献は英文のものを積極的に採用します]
このセミナーと並行して各自の卒業研究のテーマを選ぶために登録者個々との個別ミーティングを進めます。 この個別ミーティングでは,文献を適宜利用し,個々の登録者の関心に合うような科学的な問題を探りつつ, コミュニケーションの向上も図ります。最終的には,個々にいくつかのテーマを絞り込み,その中から相談の上で卒業研究のテーマを決めます。
各自のテーマが決定後,それぞれのテーマに関する文献を集め,それらを分析しながら,適当な文献による個別のセミナーによって,数理モデリング,数理モデル解析を進め,卒業論文を卒業までにまとめあげてゆきます。
生物学や生命現象の知識は必ずしも必要ではありませんが, 生命現象, もしくは,数理モデリングへの関心は必須です。 論文作成は基本的にLaTeXを用いて行い,数理モデルの数理的解析においては, 数学的手法とコンピュータによる数値計算を応用しますから,それらに必要な知識等は個々に必要に応じて学ぶことになります。 ですから,そうした必要な知識を主体的に学んでいこうとする姿勢が必要です。