Updated on 02/09/2007

2007年京都大学数理解析研究所共同利用研究


新しい生物数学の研究交流プロジェクト 2007
Kyoto Summer Research Program in Mathematical Biology Next Wave


平成19年8月27日(月)~31日(金)
於  京都大学数理解析研究所202号室

日本数理生物学会後援

参加者用ページ




全 日程を盛会の内に終了しました。参加 者,講師の皆様,お疲れ様でした!



 参加者の方には,以下の各セッションにおける講師によって指定されたセミナー文献のpdfファイルを全てダウンロードの 上,セ ミナー 担当文献に限らず,印刷して集会 にお持ち頂くようにお願い致しま す(企画者側で余分なコピーを準備する予定はありません)。 また,本集会では,全セッションを通して深く学ぶことを目指していますので, 参加者の方々には,担当文献によらず,全ての文献に目を通して頂き, できうる限り予習をしてきていただくことを期待しております。

 著 作権保 護のため,このサイトの 文献pdfにつ きましては,参加申込者のみダウンロードが許されているものとします。ダウンロードされた文献pdfにつ きまし ては,不特定多数に対して再配布されるようなことのないようにお願い致します。 また,このページへのリンクについては一切お断り致します。

■ セッションおよびセミナー文献:

1.高田壮則(北海道大・地球環境科学研究院)「植物特有の現象のモデリング」

生物の数理モデルと聞いた時に,動物と植物,どちらのモデルを想像するだろ うか?今までの私の経験では,どういうわけか動物のモデルをイメージする人が多い。「競争モデル」と聞けば,肉塊を取り合っている動物をイメージしな がらモデルの解説を理解しているようである。植物も光合成をするために光を巡る激烈な競争をしながら生きているのだが,それをリアルにイメージできる 人はそう多くはない。一般的に言うと,必要な資源や生活様式,能力が異なれば,必然的にモデリングされる数式も,それから得られる結果も異なるはずで ある。

そこで,今回の講義では高等植物に特有な現象に着目してきた自分の研究を通じて,植物に特有な現象が特有なモデル構造をもたらすことを三つの例で示 したい。このセッションでは,講師から約1時間半の解説を受けながら,参加者による論文紹介を絡め,植物ならではのモデルを理解し,逆に動物ならでは のモデルとの違いについて理解を深めたい。植物の光合成を考慮したコストベ ネフィットモデルに関する文献,また,植物に特有な栄養繁殖の進化的意義につ いて解析した文献について各50分ずつレポーターからの講義を受ける。レポーターの方は50分で解説できるようにレジメを準備してきてください。


Harada, Y. and Takada, T., 1988.  Optimal timing of leaf expansion and shedding in a seasonally varying environment.  Plant Species Biology, 3: 89--97.

Takada, T. and Nakajima, H., 1996.  The optimal allocation for seed reproduction and vegetative reproduction in perennial plants : An application to the density-dependent transition matrix model.  J. theor. Biol., 182:179--191.


2. 【招待講演】 吉川 満(関西学院大)松岡功(広島大)登坂千尋(早稲田大)「タイムスケールの違いが個体群動態に及ぼす影響」
2006 年度「新しい生物数学の研究交流プロジェクト:Kyoto Winter School of Mathematical Biology」優秀賞受賞グループ

現実を考えると,捕食者が一度再生産する間に,被食者が複数回再生産を行っている。つ まり捕食者と被食者でのタイムスケールは異なっており,一般には捕食者の方が遅いタイムスケールである。しかしモデルを作る際には,捕食者のタイムスケー ルと被食者のタイムスケールの最小倍数を取る。よって2つの種のタイムスケールが5年と17年であると,ひとつのステップを進む際に,85年という途方も ない年数となっており,現実を表しているとは言いがたい。ではこの最小公倍数という時間,ステップという概念を使わず,実際の時間を入れることを考えた。 すると個体数に与える影響はどうなるのであろうか。

今まで現実に近づけるために数理モデルでは連続時間体系ではなく,離散時間体系で考えてきた。離散時間体系では1年のある決まった季節に産卵し,1年ごと に世代が移り変わっていくような昆虫や,1年生植物(annual plants)などの場合にふさわしい。しかし1年より短い時間を考えることは意味がない。だからといって,連続時間体系で考えるといくらでも小さく時間 をとることができ,最小公倍数を考える必要がなくなる。このようにタイムスケールを導入することは,離散と連続時間モデルの間を埋めることができる。具体 的には被食者--捕食者(宿主--寄生者) モデルとしてよく使われるNicholson--Baileyモデルを使うことによって,タイムスケールの違いが個体数にどのような影響を与えるのかを考 えた。本研究ではまずNicholson--Baileyモデルをレビューし, このモデルをより詳しく理解し,その違いを考え,そこからその効果を考える。さらにはタイムスケールを導入し,その影響, さらには3種系にし,タイムスケールが間接効果に与える効果を考える。

吉 川満,松岡功,登坂千尋, 2007.  タイムスケールの違いが個体群動態に及ぼす影響. 京都大学数理解析研究所講究録, 1556: 159--173.

吉川満, 2007.  様々な時間の概念が数理モデルに与える影響. 京都大学数理解析研究所講究録, 1556: 148--158.


3. 梯 正之(広島大・大学院保健学研究科)「理論疫学 --- 感染症流行の個体群動態モデルによる研究のこれまでと今後の課題」

人間にとっても生物全般にとっても,病原 体との関係は命に関わる重大な関心事である。寄生を含めた病気の問題は,生態学的な観点からも重要であり興味深く,また,社会的には公衆衛生上の意義も大 きいということで,数理的な生物研究の中でも,主要な研究分野の一つとなっている。特に,ヒトをホストと する感染症は,伝染病の届け出などの公衆衛生上の制度により膨大なデータの蓄積があり,データの分析や理論の検証に大いに利用することができるという メリットもある。

感染症流行の数理的研究は,古典的なSIRモデルをベースに,さまざまな方向に発展してきた。HIVもふくめた性感染症の研究から,感染に関わる接触の非 一様性が注目され,ネットワーク構造の分析へとつながったともいえる。進化に関連しては,よくいわれる「弱毒性の進化」に関する研究がある。保健医療と関 連の深い領域でも,予防接種の効果分析,耐性菌の出現,新型インフルエンザ対策のための大規模モデル(個人ベースモデル),などの研究も興味深い。この セッションでは,これまでの研究の全体を概観し,今後の課題を明らかにすることをめざしたい。可能であれば,体内細胞集団の個体群動態と考えられる 「免疫系の数理モデル」にもふれたい。

Alexander, M.E., Moghadas, S.M., Rohani, P., and Summers, A.R., 2006.  Modelling the effect of a booster vaccination on disease epidemiology, J. Math. Biol., 52: 290-306. 

Choo, K., Williams, P.D., and Day, T., 2003.  Host mortality, predation and the evolution of parasite virulence.  Ecol. Lett., 6: 310-315.

Hagenaars, T.J., Donnelly, C.A., and Ferguson, N.M., 2004.  Spatial heterogeneity and the persistence of infectious diseases, J. theor. Biol., 229: 349-359.


4. 齋藤保久(Dept. of Math., Kyungpook National Univ., Korea)「個体群動態モデルの数学および時間遅れ」

単一の生物種の個体群動態を記述する基本 的なモデルでは,周りの環境との相互作用がなければ,個体群は平衡状態へ向かう。しかしながら,より現実的に個体群の動態を理解するためには,周りの環境 との相互作用といった外的な要因や,個体群自身がもつ内的な構造(年齢やサイズ)を考えなければならない。指定したセミナー文献では,個体群における後者 の影響について考察している。

単一種の個体群を若齢期と成熟期の2つのステージに分けると,個体群はどのような動態を示すのか?セミナー文献の第11章では,ステージ構造を考慮したモ デリングから導出される平面(2次元)の微分方程式が,若齢期から成熟期へのステージ推移率を考慮することによって,多様な個体群動態を実現させることを 数学的に論じている。なお,個体間において若齢期の長さに差がないときは,モデルは時間遅れを有した方程式となる。

扱われる数学も興味深い。セミナー文献の第11章のほかに,同章に登場するモデルの解析に用いられる数学理論が述べられた付録Aを大いに参照されたい。

Horst R. Thieme著(齋藤保久監訳)「生物集団の数学(上)—人口学、生態学、疫学へのアプローチ」日本評論社,東京,2006年11月.
(原著:Thieme, H.R., 2003.  Mathematics in Population Biology, Princeton University Press, Princeton.)
→ セミナー対象:第11章および付録A(注:このwebページにアップロードされ ているpdfファイル資料のページ番号は上記の出版された文献のページ番号とずれていますが,このpdfファイル資料をセミナーでは用います), 第11章の図11.1,図11.2,図11.3,図11.4,図11.5,図11.6。


5. 中丸麻由子(東京工大・社会理工学研究科)「他の生物では見られない人間特有の社会行動・社会現象をどうモデル化していくのか?」


一 般的に進化ゲーム理論研究では,自然環境や所属グループの構成員の違い(人間社会で言えば社会や文化)といった集団差や,個体の性格や知性の違いといった 個体差を出来る限り排除して,進化的に安定な戦略で代表されるような進化動力学上の安定解を求めてきた。このような単純化によって,進化ゲームは生物の様 々な行動を説明してきた。また,人間社会研究との関連では,協力行動の成立する条件などを明らかにしてきた。また,単純化によってモデルが数学的に扱いや すくなるというメリットもある。

しかし,例えば人間社会を考える場合,実験などによって集団差(つまり文化や社会,社会規範の違い)は個人の行動にも影響を及ぼすことも明らかになってき ており,重要なトピックスである。また心理学では以前から「なぜ多様なパーソナリティーが存在するのか」という問があり,進化ゲーム理論はこれに答える方 法の一つかもしれない。

今回のセッションでは個体差としてのパーソナリティの違いに焦点を当てて,それを考慮することによって人間社会のモデル研究にどの程度寄与するのか,進化 ゲーム理論研究を中心にして考えていきたい。

Wolf, M., van Doorn, G.S., Leimar, O., and Weissing, F.J., 2007.  Life-history trade-offs favour the evolution of animal personalities, Nature, 447:  581-585.

Nakamaru, M. and Sasaki, A., 2003.  Can transitive inference evolve in animals playing the hawk-dove game? J. theor. Biol., 222: 461-470.


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