Updated 24/1/2015
Since 23/02/2014

2014年度 京都大学数理解析研究所共同研究

Kyoto Winter Research Program in Mathematical Biology Next Wave 2015

数学と生命現象の連関性の探求
〜  新しいモデリングの数理  〜

平成27年1月19日 (月)〜 1月23日(金)

於  京都大学数理解析研究所111号室

日本数理生物学会 後援




全日程を無事盛会の内に終了しました。参加者および関係者の皆様,お疲れ様でした!


「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」とは,芸術ではもちろんのこと,学術においても,常にその発展の機動力となってきたプロセスの一つであることは疑うべくもありません。生命現象に関する数理的研究においても,古典的な数理モデルが,様々な場面,多様な分野で見直され,新しい分野を切り開く標(しるべ)となってきました。本学術集会は,生命現象に対する古典的数理モデルの本質に触れ,そこから現代の息吹を生み出すことを目指します。
 生命現象における数理モデリングは,生物学的知見と数理的解析を基に,生命現象に潜む構造を明らかにする手法です。この手法は,生命現象そのものあるいは実験的事実を基に,対象とする生命現象の側面と数理の間の連関性を見いだし,数理モデルを立て,解析を行い,結果を議論するというものですが,この一連のプロセスにおいて忘れてならないのは,生命現象と数理モデルの間には必然的な乖離が存在するということです。その上で,数理モデル解析から得られる理論的結果と生命現象とのギャップを科学し,そこに潜む論理を,数理モデリングによる生命現象と数理の間の連関性を基にして,見出すことに全力を注ぎます。こうしたプロセスが数理モデリングの本質であり,乖離を越えて現象と数理モデルを関係づけます。得られた結果が現象とうまくマッチしない場面に遭遇することもありますが,この状況こそが数理モデリングの醍醐味であり,威力を発揮する場面です。数理モデリングによる研究の更なる発展には,モデリングにおける数理技術の発達と,数理モデリングのセンスの向上が欠かせません。
 本学術集会では,生命現象における新しい知見の獲得を目的とした理論的手がかりの創造,及び,新しい数理モデルの開発や解析技術の発展に寄与する試みとして企画されたプログラムに取り組みます。



1  目 的

数学は,他研究分野の更なる発展の可能性を生み出すだけではなく,他研究分野から創出される数理的問題によってそれ自体も大きく発展する学問です。生命現象に関する数理的問題もそのように数学の学問発展に寄与してきたことは歴史が示す通りです。生命科学の時代とも呼ばれる21世紀が開いて10年余を経過し,実際,生物学・生命科学の諸問題に関わる数学理論及び数理モデル理論の更なる発展に対する期待はますます大きくなっています。モデリングとは,科学的な“ものの捉え方” といえます。生物学・生命科学の諸問題に対する数学的基盤を整備し,学際・融合分野における数理的研究を発展させ,それらを生命現象の研究にfeedbackする一連の過程はすべてモデリングと考えてよいでしょう。モデリングの観点から新しい生物学・生命科学研究及び数学研究を促進・創発するというインセンティブは,これからもますます意義が高まると考えられます。この学術集会は,数理分野の研究者と生物学・生命科学研究者が集い,発展性が高いテーマや未解決問題を発掘すると同時に,生物学・生命科学の分野における新しい知見の獲得に向けた新しい数理モデルの開発や解析にかかわる数理的な理論の展開,新しい数学的概念の構築を促すことを目的とし,数理分野の研究者と他研究分野との学際的・融合的研究の契機を提供することを期して企画されたものです。

2  特 色

本学術集会は,生命現象に関わる問題とその数理モデル開発という“種”をまくべく企画された以下のような学術集会を前身としています:

さらに前身として,2002年−2004年に開催された「イッキ読み合宿セミナー」(幹事:齋藤保久), 2004年, 2005年に京都大学数理解析研究所にて開催された京都大学数理解析研究所短期共同研究「生物数学イッキ読み・研究交流」(研究代表者:齋藤保久)があります。上記の学術集会では,多様なバックグラウンドをもつ若手研究者が一堂に会し,共通の話題についての数理モデルの開発や解析が現場で行われるプログラムが実施されました。参加者はセッションオーガナイザと事前打合せを行い,集会を通じた学術的交流により,いくつかの新しい分野融合的研究もスタートしました。これまでの多様な参加者は,数学・数理科学分野の若手研究者,大学院生,一線級研究者の混成となっており,本共同研究の目的に合う指向が広く存在することが明示され,その意義が裏付けられてきました。 2014年度開催の本学術集会は, 2006年〜2013年開催の上記共同研究の経験を踏まえながら,新しい成果を視野に入れた発展を目指しています。

本学術集会の意義は,特定の問題について数理モデルの開発や解析に関して自由な討論を展開し,数学−他分野融合研究の可能性を追求するところにあります。昨今では,若手研究者対象の生物数学,数理生物学に関わるようなスクール形式の学術集会が,欧米のみならず日本でも,多彩に行われるようになってきていますが,出席者参加型の企画を有する本集会のプログラムは学際研究の発展に寄与できるユニークな形態であり,本集会の大きな特色の一つになっています。

3  企画・運営


瀬野裕美【代表者】

東北大学大学院情報科学研究科情報基礎科学専攻
〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3-09
Phone & fax.  022-795-4614
Email.

齋藤保久【運営幹事】
島根大学大学院総合理工学研究科総合理工学専攻
〒690-8504 島根県松江市西川津町1060
Email.

佐藤一憲【企画協力】
静岡大学大学院工学研究科数理システム工学専攻
〒432-8561 静岡県浜松市中区城北3-5-1
Phone & fax.  053-478-1212
Email.



4  募集定員

max 30名程度(企画内容の事情により,事前登録のない参加は原則としてお断りします;参加登録については下掲)


5  参加費

無料


6  実施内容・日程

 プログラム前半では,生物学の理論に特に重要な寄与を与えた古典的文献,とりわけ,生物学・生命科学の分野における様々な数理モデルの基礎となっているpopulation dynamics(個体群動態)の数理モデリングに関わる古典的な文献のセミナーを参加者自身の参加によって行います。この文献分析を主体としたセミナーは,関連する生物学・生命科学あるいは数理科学の問題を抽出し,その問題の解決に向けての新しい数理モデル開発につなげることを目標にして,オーガナイザを擁する4つのセッションによって構成されます。各セッションでは,文献分析のセミナーを通して,文献で述べられている数理モデリング及び解析手法・解析理論やその発展の可能性について,参加者相互の議論により検討し,問題の意義・価値について討論を行うことを主旨とします。
 プログラム前半における参加者個々のセミナー分担については,参加者確定後,本集会代表者より(本集会開催以前に,個別に)通知させていただき,参加者各自にセミナーの準備をしていただきます。セミナーにおいては,参加者全員で,文献の分担部分で取り上げられる題材の内容を極限まで理解し合うことを目指しながら,数学と生命現象の連関に身をもって触れることによって,参加者同士の濃くざっくばらんな研究交流を促し,新たな問題の“匂い” を嗅ぎ取る感覚を研ぎすますことが図られます。
 プログラム後半では,セミナーでの議論もふまえて,未解決問題や新たに提起されるであろう諸問題について数理モデルの開発と解析を参加者の共同研究形式で議論するという,新しい生物数学研究の発展を期すための企画を参加者全員の参加により実施します。過去の一連の集会(上記「特色」欄参照)同様,このプログラム後半においては,参加者が数グループに分かれ,グループ毎に,セミナーでの議論もシードにして新たな問題の発掘を行い,その問題に対する数理モデルの開発および解析に取り組んでいただきます。そして,最終日,各グループの研究成果を発表していただき,コンテスト形式にて審査します(招待審査員の審査により優秀グループを表彰します。いわば,ロボコンならぬ“モデコン(モデル・コンテスト)” です。もちろん,決して,競い合うことを奨励するものではありません)。それらの研究成果については,京都大学数理解析研究所の講究録としてまとめることを最初の目標とします。本集会の予定スケジュールの概要は以下の通りです:


午前
午後
1月19日(月) 受付・説明
セッション1
セッション2
懇親会
1月20日(火) セッション3
セッション4

1月21日(水) セッション5
懇談会
Group Discussion
1月22日(木) Group Pre-Presentation
Group Discussion
1月23日(金) Final Group Presentation
Closing
※このスケジュールは,今後,企画・調整によって多少の変更もありえますのでご注意ください。 開始および終了日時については確定しています。 スケジュール変更については,適宜更新を行うとともに参加申込者には個別に通知します。

■ セッション&オーガナイザ

1.「個体群動態の調節機構の基礎理論」【岸 茂樹(京都大学生態学研究センター)】

Solomon, M.E., 1949. The natural control of animal populations. J. Anim. Ecol., 18: 1--35.
Murray, B.G. Jr., 1982. On the meaning of density dependence. Oecologia (Berl), 53: 370--373.

【参考文献】
Hutchinson, G.E., 1948. Circular causal systems in ecology. Ann. N.Y. Acad. Sci., 50: 221--246.

2.【招待講演】吉田 誠・鈴木秀典・松井淳一:対人関係ネットワークの時間的変化 〜 なぜあなたは「ひとりぼっち」なのか
2013年度「数学と生命現象の連関性の探求 〜 新しいモデリングの数理 〜:Kyoto Summer Research Program in Mathematical Biology Next Wave」受賞グループ

3.「Levinsの数理モデリング再考」【谷内茂雄(京都大学生態学研究センター)】

Levins, R., 1966. The strategy of model building in population biology. American Scientist, 54: 421--431.
Levins, R., 1969. Some demographic and genetic consequences of environmental heterogeneity for biological control. Bull. Entomol. Soc. Am., 15: 237--240.
Levins, R. and Culver, D., 1971. Regional coexistence of species and competition between rare species. Proc. Natul. Acad. Sci. USA, 68: 1246--1248.
Hanski, I., 1998. Metapopulation dynamics. Nature, 396: 41--49.

4.「Mayの数理モデリング再考」【國谷紀良(神戸大学)】

Anderson, R.M. and May, R.M., 1978. Regulation and stability of host-parasite population interactions I. Regulatory processes. J. Anim. Ecol., 47: 219--247.
May, R.M. and Anderson, R.M., 1978. Regulation and stability of host-parasite population interactions: II. Destabilizing processes. J. Anim. Ecol., 47: 249--267.
Hassell, M.P. and May, R.M., 1988. Spatial heterogeneity and the dynamics of parasitoid-host systems. Ann. Zool. Fennici, 25: 55--61.

【参考文献】
Hassell, M.P. and May, R.M., 1973. Stability in insect host-parasite models. J. Anim. Ecol., 42: 693--726.

5.「Turingの数理モデリング再考」【李 聖林(広島大学)】

Murray, J.D., 1990. Discussion: Turing's theory of morphogenesis―Its influence on modelling biological pattern and form. Bull. Math. Biol., 52: 117--152.
Kondo, S. and Miura, T., 2010. Reaction-diffusion model as a framework for understanding biological pattern formation. Science, 329: 1616--1620.
Maini, P.K. et al., 2012. Turing's model for biological pattern formation and the robustness problem. Interface Focus, 2: 487--496.

【参考文献】
Turing, A.M., 1952. The chemical basis of morphogenesis. Philosophical Transactions of the Royal Society, 237: 37--72.


7  参加申し込み

参加申込書を電子メイルにて, 運営幹事齋藤保久()までお送り下さい。

参加申し込み締め切り日:平成26年10月31日(金) 平成26年11月7日(金)
(これ以降の参加申し込みについては運営幹事あるいは本集会代表者までお問い合わせください。なお,事前登録のない参加は原則としてお断りします)

参加費は無料ですが,本集会の企画セッションへの参加のため,上記セミナー文献については,開催以前に参加者自身による入手をお願いすることになります。セミナー文献の入手に関する情報も含め,参加申込者の方には,逐次,本集会についての詳細を別途お知らせ致します。

なお,学生(大学院生,PD)参加者の方には旅費の一部補助ができる可能性があります。

問い合わせは,代表者瀬野裕美,あるいは,運営幹事齋藤保久までお気軽にお知らせ下さい。