--- Mathematical consideration for biological phenomenon with the mathematical modelling and the analysis of mathematical model ---
親は子のために学校や学校外での教育への投資を行うが,その教育投資の家庭における重要度に対する意識にはばらつきがある。本研究では,教育投資に関するそのような意識の社会における分布について,伝達子(ミーム)の概念を用いて,世代間の意識の関係を「伝達」として扱い,集団遺伝学のモデリングに倣った数理モデルを構築し,親の意識分布の推移を理論的に考察した。その結果,意識分布が定常な状態に収束する場合と,周期的な変動状態に収束する場合が現れ,それらの示唆する社会的状況についての解釈を試みた。
発表:子に対する教育投資への親の意識分布の世代間遷移ダイナミクスモデル(Mathematical model on generational transition of parents' attitude in educational investment for child),瀬野裕美・井上美香,日本数理生物学会第23回大会,静岡大学(浜松),9月11日 −9月13日,2013. → abstract.pdf
餌個体を待ち受けるための縄張りを形成する待ち受け型捕食者の縄張りサイズについて,縄張り間相互作用も考慮した数理モデルを構成し,解析した。その結果,一個体がとる縄張りの最適サイズは,相互作用の強さについて,単調減少であることが示された。縄張り間の相互作用の強さを表すパラメータを陽に含む最適縄張りサイズが導出できたので,数学的結果をさらに拡張して,観測される縄張りサイズ分布について検討することが引き続く課題である。
2人の人間どうしの好き嫌い感情の時間変動に関する数理モデルを解析した。感情のレベルの遷移ダイナミクスに,外部(第3者)からもたらされる噂などの付加的な情報の影響を導入した数理モデルを構築し,外部からの情報の影響がなければ,互いに中庸な気持ちに陥る条件下において,外部からの情報の影響による平衡状態の変性について,数値計算を用いて検討したところ,2周期定常状態やカオス変動に陥る場合があることが示された。
本研究では,Lotka--Volterra型被食者--捕食者系を用いて,1捕食者--2被食者系に外来捕食者1種を導入した場合に起こる,被食者間の見かけの競争の変質による平衡状態遷移を調べた。考察した捕食者2種と被食者2種から成るLotka--Volterra型被食者--捕食者系では,被食者2種間の相互作用はなく,捕食者と被食者の捕食関係のみが存在する。被食者2種は共通の捕食者をもつので,見かけの競争関係にある。また,捕食者2種間にも直接の相互作用はないが,共通の被食者をもつので,搾取型の競争関係にある。さらに,捕食者の種内密度効果は存在しない(無視する)。被食者の初期条件に関しては,初期値が環境許容量を超えない条件を課す。解析の結果,外来捕食者の導入によって在来の絶滅危惧種を救える場合の存在を示すことができた。また,外来捕食者の特性によっては,外来捕食者の導入による特定の在来種の駆除(絶滅の誘発)が可能であることも示された。
発表:人間の介入の効果を含む個体群動態の基礎理論, 瀬野裕美,大談話会(理学研究科数学専攻・情報科学研究科数学教室・WPI-AIMR共催)東北大学WPI 2Fセミナー室(仙台),12月3日,2012.
瀬野裕美, 恩田芳, 2012. 外来捕食者侵入による見かけの競争の効果の変質に関する数理モデル解析(Analaysis of a mathematical model on the modification of apparent competition effect with the invasion of alien predator), 京都大学数理解析研究所講究録, 1796: 141-157.
外来捕食者侵入による見かけの競争の効果の変質に関する数理モデル解析(Analysis of A Mathematical Model on The Modification of Apparent Competition Effect with The Invasion of Alien Predator), 恩田 芳・瀬野裕美,平成23年度京都大学数理解析研究所共同利用研究集会 「生物数学の理論とその応用」(研究代表者 守田 智),京都大学数理解析研究所(京都),11月15日 −11月18日,2011. → abstract.pdf
本研究では,複数のbroodsから構成される被食者の成体個体群サイズ変動に着目した離散型個体群動態モデルを構築し,解析した。特に,捕食者の捕食による間接的な相互作用によって,いくつかのbroodsが絶滅し,生残するbroodsと捕食者が共存する平衡状態の出現性に焦点をおいた。被食者の生活史の長さをn年とし,被食者は生活史の最終年のみ成体として繁殖できるとする。数値計算も用いた解析の結果,いくつかのbroodsのみと捕食者とが共存する定常状態に収束する場合が出現し得,周期的な平衡状態のみならず,カオス的な動的平衡状態も現れうることが示された。
発表:複数のブルードから構成される被食者を伴う離散型個体群動態モデル(A Discrete Population Dynamics Model with Some Different Broods of Prey),志波[松本]翔・瀬野裕美,日本数理生物学会第21回大会,明治大学駿河台キャンパス(東京),9月13日−9月15日,2011. → abstract.pdf
インフルエンザをはじめとする感染症の流行には,大流行と小流行を繰り返す様相が見られる。これには,前年の流行により,翌年促される様々な予防対策が感染症流行を抑制する効果も働いている可能性があるのではないだろうか。本研究では,感染症流行の年変動についてのこの可能性に関する理論的な考察を行うために,前年の感染規模(感 染症罹患者総数)が,翌年の感染症伝染ダイナミクスに及ぼす影響を導入した基本的な数理モデルの解析を行った。毎年の感染シーズンにおける感染症伝染ダイナミクスは,最も基本的なKermack--McKendrick型SIRモデルで記述できるとする。感染シーズン中における総個体群サイズの変動は無視する。このSIR モデルについて,感染シーズン終了時の免疫獲得者個体群サイズで定義される感染規模を与える極限方程式を導出することができる。k年目の感染係数と回復率が前年の感染規模の影響を受けるという仮定を数理モデルに導入し,感染規模の年変動ダイナミクスを支配する離散力学系による数理モデルを構築し,考察した。解析により,構築した数理モデルによる感染規模年変動には,一定規模の流行を繰り返される場合,中規模と大規模の流行を繰り返す場合,流行しない年と大規模の流行を起こす年を繰り返す場合の3パターンが現れうることがわかった。この結果は,前年の感染規模に対する予防水準の応答性が,結果として現れる感染規模を左右しうることを示唆している。
発表:
瀬野裕美,寺田恵華,井上美香,2013. 過去の感染規模が現在の予防水準に及ぼす影響を考慮した感染規模年変動の数理モデル(A simple mathematical model for the annual variation of epidemic outbreak with prevention level affected by past incidence sizes), 京都大学数理解析研究所講究録, 1853: 134-149.
過去の感染規模が現在の予防水準に及ぼす影響を考慮した感染規模年変動の数理モデル(A simple mathematical model for the annual variation of epidemic outbreak with prevention level affected by past incidence sizes), 瀬野裕美・寺田恵華・井上美香, 日本数学会2013年度秋季総合分科会,愛媛大学(松山),9月24日〜27日, 2013. → abstract.pdf
過去の感染規模が現在の予防水準に及ぼす影響を考慮した感染規模年変動の数理モデル(A simple mathematical model for the annual variation of epidemic outbreak with prevention level affected by past incidence sizes), 瀬野裕美・寺田恵華・井上美香, 京都大学数理解析研究所共同利用研究集会「第9回生物数学の理論とその応用」, 京都大学数理解析研究所(京都), 11月13日--16日, 2012. → abstract.pdf
A Simple Mathematical Model for The Annual Variation of Epidemic Outbreak with Prevention Level Affected by Incidence Size in The Last Season, H. Seno and A. Terada, 8th European Conference on Mathematical and Theoretical Biology, and Annual Meeting of The Society for Mathematical Biology --- ECMTB 2011, The Jagiellonian University, Kraków, Poland, 28 June - 2 July, 2011. → abstract.pdf
本研究では,ある有限な繁殖期間内に,複数回交尾戦略をとる雌個体が,全交尾から期待される繁殖成功度を最大にするための,交尾回数,各交尾へのエネルギー配分について,理論的な考察を行った。n回交尾戦略をとる雌の期待繁殖成功度Jnを,繁殖期間における交尾成功確率,雌個体の死亡確率を考慮し,確率過程の考え方に基づいた数理モデリングによって一般的な数理モデルを構成し,数学的に調べた結果,産み落とされた子の生存確率が,何回目の交尾・繁殖による子であるかに依存せず等しい場合には,常に,1回交尾戦略が最適であり,複数回交尾戦略は適応的になり得ないことが証明された。複数回交尾戦略が適応的になるためには,産まれる子の生存確率(したがって,適応度)が,産み落とされた時点や,産み落とす母親の状態に依存していることが必要であることが示唆された。
発表:複数回交尾戦略の適応性に関する数理的考察(A Mathematical Consideration on The Optimality of Multiple Mating Strategy), 瀬野裕美・井上宏樹,日本数理生物学会第20回大会,北海道大学学術交流会館(札幌),9 月13日 −9月16日,2010. → abstract.pdf
本研究では,収穫休閑期の特性がどのように生物資源の持続性に関わり得るかに関して,時間周期的な収穫休閑期を導入したlogistic型モデルを考察した。収穫期と収穫休閑期の長さは一定であり,交互に繰り返される。収穫期には,一定の収穫速度で収穫が行われる。このため,数学的には, ある収穫期において,過収穫となり,生物資源が枯渇することもあり得る。初期条件として,$t = 0$における生物資源サイズは,収穫が行われない場合の生物資源サイズに対する(logistic型増殖から導かれる)環境許容量を超えない値とする。数理モデルを解析した結果,過収穫によって,生物資源が枯渇しないための生物資源サイズに関する閾値を導出し,収穫速度と収穫休閑期長への閾値の依存性を調べた。
インフルエンザのワクチン接種は子どもや老人に優先的に行われることが多い。しかし,感染拡大に最も影響を与えるのは,日常の移動距離や他人との接触頻度が大きな成人集団ではないだろうか?本研究では,Kermack--McKendrick型SIRモデルを基に,移動性や他個体との接触頻度に関して個体群を活動度の高いクラスと低いクラスの2つに分け,比例混合を用いた感染関数を導入したモデルを構築・解析した。活動度の高いクラスの個体はlocal siteからoff-local sitesに一時的に移動するが,活動度の低いクラスの個体は常にlocal siteに留まるものとする。集団全体の総個体群サイズは,出生と死亡を無視し,定数と仮定した。数理モデルの 解析においては,特に,構成員の活動度の違い,および,2つのクラスサイズがどのように感染流行の発生に影響を及ぼすかについて検討した。それぞれのクラスにおける活動度とクラスサイズの違いは,各部分個体群で感染症が初期流行するかどうかを左右する。また,最初の感染者が現れた部分個体群で初期流行は起こらなくても,感染の経過により,結果的に集団全体で感染症の流行が発生する場合がある。よって,効果的なワクチン接種を計画する上では,集団における活動度の分布や特性についても勘案することが重要である。
本研究では,単一種個体群における自己環境劣化の影響について,環境改善の効果も導入した個体群ダイナミクスモデルを構築し,その解析の結果に基づいて,個体群サイズをある一定レベル以上に保つための環境改善の特性についての考察を行った。個体群の増殖に対する環境劣化の影響として内的自然増殖率が影響を受けるものとする。環境劣化は個体群の生命活動によって進行し,自然には回復しないものとする。環境の改善は,時間周期Tで繰り返され,改善率ρで環境劣化の影響の強さを軽減できると仮定する。k回目の環境改善後からk+1回目の環境改善までの時間区間[kT, (k+1)T)における個体群サイズの時間変動ダイナミクスを与える常微分方程式による数理モデルの解析の結果,環境改善を全く行わない(ρ = 0)場合には,個体群は必然的に絶滅する(大域安定)が,環境改善を行えば(ρ >0),必然的に個体群は存続することがわかった。また,改善率ρが十分に大きい場合には,カオス変動状態が起こり得る。さらに,十分な時間経過後の環境劣化の影響の強さの時間平均は,環境改善の特性(ρ, T)に依存しない定数に収束することも示すことができる。数学的結果および数値計算による結果に基づいて,個体群サイズをあるレベル以上に維持するための環境改善の特性や,コストに制限のある場合の最適な改善策について議論を試みた。
発表:A
Mathematical Model Analysis for An Artificial Recovery of Environment Degraded by Population Dynamics(個体群による自己環境劣化に対する環境改善効果についての数理モデル解 析),瀬野裕美・上島勇介,日本数理生物学会第19回大会,東京大学(東京),9月9日 −9月11日,2009. → abstract.pdf
本研究では,競争 2種系に人為的な個体群サイズ削減操作を行なうことによる個体群サイズ制御について考察する。扱うモデルは削減効果を導入した離散世代型2種競争系モデルである。その離散世代型モデルの平衡点の存在性と安定性は,常微分方程式系によるLotka--Volterra型2種競争系のそれらと同等であるものを考察した。離散世代型2種競争系モデルの解析結果により,削減効果が導入された場合の共存平衡点における個体群サイズが,削減効果のない場合よりも2種共に高いレベルに遷移する条件,2種共に低いレベルに遷移する条件,内1種のみが高いレベルに遷移する条件を導出した。そして,これらの結果に基づいて,リサージェンス(害虫の誘導多発性現象)や生物保全の問題に関連する議論を試みた。
発表:Analysis of A Discrete-Time Competition Population Dynamics with Harvesting Effect (削減効果を導入した離散時間型競争モデルの解析),国貞宗久・瀬野裕美,日本数理生物学会第19回大会,東京大学(東京),9月9日 −9月11日,2009. → abstract.pdf
本研究では, model種とmimic(擬態)種,その捕食者種の間の個体群動態の数理モデルを解析した。捕食者における探索像の記憶と忘却により捕食確率が変化する。毎日の捕食活動時間における個体群動態を常微分方程式系で与え,そのT日間で定められる捕食シーズンの後,Beverton–Holt差分方程式モデルにより与えられた,生き残った個体による繁殖が,次の捕食シーズンの初期条件を定めるという過程によって構築された数理モデルを解析した。model種とmimic種は捕食者に同類の餌として認識される。model個体を捕食した捕食者の捕食確率は0に,mimic個体を捕食した捕食者の捕食確率はある高レベルに遷移する。捕食者個体群サイズは餌個体群サイズに依存せず,一定であるとする。捕食シーズンk日目の捕食活動時間終了時の,model個体群サイズ,mimic個体群サイズをk+1日目の捕食活動時間開始時の初期値とする。また,捕食活動時間終了時の高捕食確率状態にある捕食者の頻度,捕食回避状態にある捕食者の頻度は,捕食履歴(記憶)の忘却により,翌日までにある一定の割合で減少し,その減少した頻度分により,翌日の中庸な捕食確率状態にある捕食者の初期頻度が定まる。以上のモデリングによる数理モデルから,捕食活動時間開始時の個体群サイズの日変動ダイナミクスを与える差分方程式系を導出することができる。さらに,繁殖シーズンでは,model個体群とmimic個体群の繁殖は,Beverton--Holt差分方程式モデルに従うものとして,捕食シーズン終了時の餌個体群サイズと次の捕食シーズン開始時の餌個体群サイズの間の関係式が与えられる。これらの関係式により,n回目の捕食シーズン開始時の餌個体群サイズと,n+1回目の捕食シーズン開始時の餌個体群サイズの間の関係(差分方程)式を導出し,解析することにより,餌個体群の存続条件を導出できる。model個体群の存続条件は,mimic個体群サイズに依存しないが,mimic個体群の存続条件は,model個体群サイズと捕食者の探索像記憶保持の程度に依存することが示される。数理モデル解析の結果を基に,model種の捕食者にとっての嫌避性の強さ(毒性の強さなど)がmimic種との共存性にどのように関わるかについて議論を行った。
発表: Seno, H. and Kohno, T., 2012. A mathematical model of population dynamics for Batesian mimicry system, J. Biol. Dyn., [in press], 2012. [DOI:10.1080/17513758.2012.672659].
A
Mathematical Model of Population Dynamics with Predator's Behavioral Change Induced by Prey's Batesian Mimicry, H. Seno and T. Kohno, The Third China--Japan Colloquium of Mathematical Biology,北京, 18--21 October, 2010. → abstract.pdf
Seno, H. and Kohno, T., 2010. A mathematical model of population dynamics with predator's behavioral change induced by prey's Batesian mimicry(被食者のベイツ型擬態に誘発される捕食者の行動変化を導入した個体群動態モデル), 京都大学数理解析研究所講 究録, 1704: 85-94.
A
Mathematical Model of Population Dynamics with Predator's Behavioral Change Induced by Prey's Batesian Mimicry, H. Seno and T. Kohno, Conference on Computational and Mathematical Population Dynamics --- CMPD3, University Victor Segalen Bordeaux 2, Bordeaux, France, 31 May - 4 June, 2010. → abstract.pdf
捕食者の探索像記憶の程度によってベイツ型擬態種の定着が左右される:個体群動態モデルによる一考,瀬野裕美・河野孝弘,北海道大学大学院地球環境科学院「生命数理セミナー第21回」,北海道大学(札幌),2月24 日,2010.
ベイツ型擬態種による捕食行動の変化を導入した個体群動態モデル(A Mathematical Model of Population Dynamics with A
Predator's Behavioral Change by The Batesian Mimic Prey),瀬野裕美・河野孝弘,京都大学数理解析研究所共同利用研究集会「第6回生物数学の理論とその応用」,龍谷大学セミナーハウス「ともいき荘」(京都),11月10日 −11月13日,2009. → abstract.pdf
生息好適地がパッチ状に分布する環境中において,生息好適パッチを巡って競争する複数種の共存可能性についてのメタ個体群動態に関する数理モデルを考察した。N種の生物個体群が存在し,各生息好適パッチは,1種のみが占めるか空であるとする。種間には競争的な優劣が存在し,優位種は劣位種が占めているパッチを奪うことができるが,劣位種は優位種が占めているパッチを奪うことはできないとする。空パッチの獲得や優位種による劣位種パッチの奪取については種間競争が存在し,競争の勝者となる確率は分散部分個体群の実効的な頻度に比例すると仮定した。さらに,競争の勝者が奪取したパッチへの定住に成功する確率は,その分散部分個体群の実効的な大きさに比例するとする。本研究では,特に,2種系についての詳細な解析を行った。劣位種パッチの奪取成功率が十分に小さい場合には,劣位種の分散性が優位種の分散性に比べて十分に強いとき,劣位種パッチの奪取成功率が十分に大きい場合には,劣位種パッチの絶滅率が十分に大きいとき,優位種個体群が絶滅することがわかった。この結果は,パッチ状環境における複数種競争系における共存性が各生物種の分散性に左右され,単一の生息地内での競争関係における優劣とは異なる競争の結果が生じうることを示している。
食物網のなかでの相互作用には,直接効果と間接効果の2種類が存在する。直接効果には,競争,捕食,共生などがある。一方,ある種が他者に及ぼす影響が第三種を介して生じると考えられる場合を間接効果という。Holt (1977, 1984)は,餌2種と捕食者1種の系における餌種間の負の間接効果を見かけの競争(apparent competition)と呼んだ。本研究では,被食者間に相互作用のないLotka-Volterra型1捕食者−複数餌種モデルを解析し,餌n種と捕食者が共存している系で,いずれかの餌種が削除された場合,あるいは,新しい餌種を追加した場合のそれぞれについて,系の至る定常状態に関する結果をまとめた。餌種の削除による系の定常状態の摂動については,捕食者が絶滅するか,残った全ての種が共存するかのいずれかの平衡状態への遷移しかありえない。一方,新しい餌種の追加による系の定常状態の摂動は,見かけの競争効果による既存種の絶滅が起こりうる。さらに,この系においてどのような餌種の組み合わせが極端な雑食性の捕食者(generalist)と多くの餌種の共存平衡状態を実現するかについて議論を展開した。
発表:
Seno, H., Schneider, V.P. and Kimura, T.,
How many preys could coexist with a shared predator in the Lotka-Volterra system?: State transition by species deletion/introduction,
J. Phys. A: Math. Theor., 53(41), 2020, 415601.
https://doi.org/10.1088/1751-8121/abadb8
人間の介入の効果を含む個体群動態の基礎理論,瀬野裕美,大談話会(理学研究科数学専攻・情報科学研究科数学教室・WPI-AIMR共催)東北大学WPI 2Fセミナー室(仙台),12月3日,2012.
How Many Preys Could a Predator Coexist with?: Theoretical Consideration with a Mathematical Model,T. Kimura and H. Seno,Japanese-Korean Joint Meeting for Mathematical Biology (Fukuoka, Japan), 9月16日−9月18日,2006.
複数の競争種が共存している系からの1種の削除による系の状態遷移について考える。競争種の削除によって系のバランスが崩れ,派生的な更なる種の絶滅が起こる可能性がある。そのような種の副次絶滅(secondary extinction)が起こるか否かは,削除される種に依存して決まると考えられ,副次絶滅につながる性質をもつ種をキーストーン種と呼ぶ。本研究では,あるLotka-Volterra型N種競争系について,安定共存平衡点にある系から1種を削除した場合に副次絶滅が生起する条件について検討した。全ての種において,同種に及ぼす競争効果が他種に及ぼす競争効果よりも強い場合には,どの種を削除しても副次絶滅は起こらない。副次絶滅が起こりうるのは,ある1種のみについて他種に及ぼす競争効果が同種に及ぼす競争効果よりも強く,他の種については同種に及ぼす競争効果が他種に及ぼす競争効果よりも強い場合に限る。そして,同種に及ぼす競争効果と他種に及ぼす競争効果の強さが同程度である種や競争による影響を受けにくい種が副次絶滅をより生起させ易いことが示された。
発表:Theoretical Consideration on the Existence of Keystone Species in a Competition System: Analysis for a Mathematical Model,S. Kubota and H. Seno,Japanese-Korean Joint Meeting for Mathematical Biology (Fukuoka, Japan), 9月16日−9月18日,2006.
Theoretical Consideration on the Existence of Keystone Species in a Competition System: Analysis for a Mathematical Model,久保田聡,瀬野裕美,数理分子生命理学専攻 第2回公開シンポジウム 生命科学の新展 開 −生命と数理の融合−,広島大学(東広島),8月, 2006.
スナガニ科のチゴガニIlyoplax pusillusの雄は繁殖期になるとwavingを行う。その意味は他の雄に対する威嚇と雌に対する求愛と考えられている。wavingには個体間で相互作用があり,空間の個体分布によるwavingのうねりパターン(群波)が観察される。このうねりのパターンが生じる原因,メカニズムについては何もわかっていない。本研究ではcellular automatonを用いた数理モデルの解析により,そのメカニズムに関する理論的な示唆を得ようとした。個体を2次元正方格子空間の各格子点に均一に配置する。初期条件として,個体の「向き」,および,はさみ脚の状態(上げているか下げているか)をランダムに与える。個体の移動はなく,格子空間の境界上に個体はいないものとする。各個体の「向き」に依存して,Moore型近傍に位置する近接個体から実効近隣個体1個体を定める。従前の実験研究によって示された結果に従い,実効近隣個体がwavingにおいてはさみ脚を上げている状態ならば,同時的に自らのはさみ脚を上げようとする傾向,すなわち,wavingが同調する傾向があると仮定する。実効近隣個体がいない状態では,wavingは規則正しい時間周期的な運動である。さらに,各個体は頻繁に「砂食い」を行い,砂食い活動中はwavingを行わないとする。数理モデルの数値計算の結果,砂食いを全く行わない場合,または,砂食いを行うことがあっても「向き」を各時間ステップにおいてランダムに変える場合にはうねりのパターンは生成されない。砂食いを行い,かつ,個体の「向き」の分布にある程度の偏りがある場合に,wavingによるうねりパターンが生成される。この結果から,うねりには砂食いによるwaving相互作用の欠損と個体「向き」の偏りが必要なのではないかという示唆が得られた。
発表: A Mathematical Model for A Group Wave Emergence with Waving Behavior of Ocypodid Crab Ilyoplax pusillus,
H. Seno and K. Tsutamura, Conference on Computational and Mathematical Population Dynamics --- CMPD3, University Victor Segalen Bordeaux 2, Bordeaux, France, 31 May - 4 June, 2010. → abstract.pdf
A Mathematical Model for a Group Wave Emergence with Waving Behavior of Ocypodid Crab Ilyoplax pusillus,K. Tsutamura and H. Seno,Japanese-Korean Joint Meeting for Mathematical Biology (Fukuoka, Japan), 9月16日−9月18日,2006.
生態系では,緑色植物などが光合成によって生成したエネルギーは,栄養段階と呼ばれる段階を移動する。第1栄養段階は光合成によりエネルギーを生成する生物,第2段階は植食動物,第3段階以上は肉食動物から成る。本研究では,数理モデルの解析によって,安定に存在できる食物連鎖を成す栄養段階の数に関しての理論的考察を行った。エネルギー生産量が植物及び植食動物の増減に依存しない,定常な環境を仮定し,第1段階におけるエネルギー生産率を一定値とする。確立する段階数は,エネルギー生産率に依存して決まり,無限の段階数も確立され得ることが,数学的に証明できる。また,存在し得る食物連鎖の長さが有限な上限をもつ条件も導くことができる。特に,各パラメータが栄養段階に依らず全て等しい場合には,無限段階数の食物連鎖は確立され得ない。この場合,可能な最長の食物連鎖において,各段階に存在するエネルギー量の分布は,必ず,下位ほど大きいピラミッド構造を示す。しかし,最上位の段階を取り除くと,ピラミッド構造は崩れる。それでも,偶奇段階のそれぞれについては,その単調性は維持されている。本研究では,栄養段階数及びエネルギー量の分布について,さらに詳細な解析結果を体系的にとりまとめた。その結果,エネルギー栄養段階については,ピラミッド構造は,必ずしも一般的とは言えないことがわかった。
発表: Matsuoka, T. and Seno, H., 2008. Possibly longest food chain: analysis of a mathematical model, Math. Model. Nat. Phenom., 3(4): 131-160.
Length of Food Chain: Analysis of a Mathematical Model, T. Matsuoka and H. Seno, International Conference on Ecological Modelling 2006 in Yamaguchi, Yamaguchi University, Ube, Yamaguchi, Japan, 2006年8月28日-9月1日.
Length of Food Chain: Analysis of a Mathematical Model,松岡功,瀬野裕美,数理分子生命理学専攻 第2回公開シンポジウム 生命科学の新 展開 −生命と数理の融合−,広島大学(東広島),8月, 2006.
食物連鎖におけるエネルギー栄養段階の数に関する数理モデル解析(A Mathematical Model for The Number of Energy Trophic Levels in Food Chain),松岡功・瀬野裕美,日本数理生物学会第15回大会(2005年数理生物学シンポ ジウム),横浜国立大学(横浜),9月15日 −9月17日,2005. → abstract.pdf
本研究では,共通の資源を巡る搾取型競争下にある消費者2種系を考え,消費者の一方が競争の効果により絶滅する状況の下で,別種の資源を系に導入するときに,消費者2種が共存できる可能性について,導入した資源と既存の資源の質に関する差違に着目した数理的研究を行った。考察の対象となるモデルは,Lotka-Volterra型競争系に,MacArthurの数理モデリングの考えを用いて,資源の持つ質の分布の効果を導入した数理モデルである。本研究では,消費者の利用関数と資源の環境容量が共に正規分布で与えられる数理モデルを解析した。資源が1種のみの場合について,一方の消費者が絶滅する条件を求め,その条件下で,別種の資源が導入された場合を考える。消費者の資源利用に関する特異性が強い場合と弱い場合のそれぞれについて,資源2種の類似度と2消費者の共存性の関係について検討した。その結果,新しく導入される資源を,元々存在する資源と適当に異なるものにすることによって,消費者の共存や絶滅の逆転が起こりうることが理論的に示された。
発表:搾取型競争下にある消費者2種系への新しい資源導入の影響に関する数理的研究(A Mathematical Study for The Effect of New Resource Introduced into Two Consumer System under Exploitative Competiiton),宗田一男・瀬野裕美,日本数理生物学会第15回大会(2005年数理生物学シンポジウム),横浜国立大学(横浜),9月15日 −9月17日,2005. → abstract.pdf
近年,麻疹の予防接種における有効免疫期間が縮まってきた可能性が指摘されている。ワクチン接種による免疫が終生免疫ではない 場合,どのような追加接種が適切なのだろうか?本研究では免疫力失活に対する追加ワクチン接種の効果について,基本的な数理モデル解析によって考察を試みた。
本研究で構成した数理モデルでは人口集団を次の3つの年齢層グループに分ける:幼年層(グループ1),少年層(グループ2),成年層(グループ3)。各グループ内の時刻$t$における未感染者個体群サイズを$S_i(t)$ $(i = 1,2,3)$,感染者個体群サイズを$I_i(t)$ $(i = 1,2,3)$,一度感染し,抗体を獲得した免疫個体群サイズを$R_i(t)$$(i = 1,2,3)$,各グループにおいて感染なく,有効免疫を獲得した(ワクチン被接種も含)免疫個体群サイズを$M_i(t)$ $(i = 1,2,3)$とする。また,各グループ内の総個体群サイズを$G_i = S_i + I_i + R_i + M_i$ $(i =
1,2,3)$とする:本研究では,各グループの総個体群サイズ$G_i$ $(i = 1,2,3)$が定常である年齢層グループを仮定した。この仮定は,数理モデルにおけるいくつかのパラメータの間の関係を上記の系に課すことで数理モデリングできる。この数理モデルの理論的解析と高知県の感染症患者数データを用いた数値計算により,伝染病駆逐平衡状態が実現され得るためには,ある閾値以上の一次接種率が必要であることが導かれた。また,どんな追加接種率に対しても,伝染病駆逐が可能になるには,ある閾値以上の一次接種が必要であり,一次接種の重要性が強調された。
発表: ワクチン接種による免疫力の失活を伴う伝染病の感染ダイナミクスに関する数理モデル解析〜 麻疹感染に対する理論的示唆〜(Analysis of Mathematical Model for Epidemic Dynamics with Decaying Immunity of Vaccination: Theoretical Implication for mealses),佐藤直樹・瀬野裕美,第14回日本数理生物学会年会(2004年数理生物学シンポジウム),広島大学学士会館(東広島),9月22日 −9月25日,2004.
競争関係により共存不可能な2種の被食者からなる系に捕食者が導入されることによって系が安定化され,(平衡状態や永続する振動状態で)3種が共存する現象があることが知られている。この現象は「捕食者が誘導する共存」と呼ばれる。一方,被食者2種間に直接的な競争がなくても,共通の捕食者の存在によって被食者1種が絶滅する「巻き添え競争」と呼ばれる現象がある。本研究では,直接的な競争と巻き添え競争,両方の関係をもつ複数の被食者の共存性に焦点をおき,特に,1捕食者−2被食者系において,2被食者間に直接的な競争関係がなければ,巻き添え競争によって1被食者が絶滅する場合に,2被食者間に直接的な競争があれば,1捕食者と2被食者が共存する可能性があるのか,あるいは,捕食者の絶滅を伴う,2被食者の共存が起こる可能性があるのかを考察した。
この課題に関して,本研究では,特に,被食者間に競争関係がある場合のLotka-Volterra型2被食者−1捕食者系モデルを考察した。平衡点の
局所安定性解析と数値計算によって,巻き添え競争による被食者の絶滅が起こる系では,被食者間の競争が存在しても,1捕食者と2被食者の共存は不可能であることがわかった。一方,適当な被食者間の種間競争下では,捕食者の絶滅を伴う2被食者の共存は可能である。この共存を「直接的競争による巻き添え競争緩和による共存」と呼ぶことにする。本研究では,直接的競争による巻き添え競争緩和による共存が起こりうるための条件を,捕食者の被食者に対するエネルギー変換係数,被食者の種内競争,被食者の種間競争について詳細に考察し,以下のような結果を得た:直接的競争による巻き添え競争緩和による共存を実現するためには,捕食による影響をより受けやすい被食者のエネルギー変換係数が相当に低くなければならず,捕食による影響をより受けにくい被食者のエネルギー変換係数がある中庸な値でなければならない。さらに,種内競争の強さは,いずれの被食者についても,中庸でなければならず,捕食による影響をより受けにくい被食者の方が相対的に強くなければならない。種間競争は捕食者が不在な2被食者のみの系での共存が可能になるほど弱くなければならないが,捕食による影響をより受けにくい被食者の受ける種間競争係数はある閾値以上でなければならない。また,捕食者の特性についてもある条件が必要である。
さらに,本研究では,上記の2被食者−1捕食者系モデルの解析に加えて,数値実験を用いた解析により,2被食者−1捕食者の系に,新たな3種目の被食者が導入されることによって,3種目の被食者との直接的競争による巻き添え競争緩和による共存が実現する場合が起こり得ることが示された。
これらの結果は,種間の競争が捕食者の侵入を妨げ,種間の共存を保障する役割を果たしうることを示唆している。また,巻き添え競争による絶滅を回避するために種間競争が有効でありうると考えられる。よって,安定に存在する生態系における競争関係は,共存の促進の役割を果たしている可能性がある。ある食物連鎖網におけるある被食者間の競争が断絶すれば,系にスケールの大きな変移が起こり得ることが示唆される。
発 表: 共通の捕食者をもつ被食者間の競争による共存に関する数理モデル研究(Competition Promotes The Coexistence of Preys under A Common Predator: Mathematical Considerations),鈴木一之・瀬野裕美,第14回日本数理生物学会年会(2004年 数理生物学シンポジウム),広島大学学士会館(東広島),9月22日−9月25日,2004.
A mathematical model of time-discrete host-parasite population dynamics with harvesting effect.
(離散世代寄主-寄生者ダイナミクスにおける個体群削減の効果に関する数理モデル解析)
離散世代(non-overlapping generation)の寄主−(捕食)寄生者ダイナミクスとして次のような離散力学系モデルに関する解析を行った:
λ
N(t+1) = -------------- (1-σ)N(t)exp[-aP(t)]
1 + b(1-σ)N(t)
P(t+1) = [1 - g(σ)]cN(t){1 - exp[-aP(t)]}
ここで,N(t)とP(t)は,それぞれ,寄主と寄生者の第t世代目の個体群サイズを表す。λは寄主の内的自然増殖率を意味し,bは寄主個体群内の密度効果の強さを表す。 寄主個体群内の密度効果は,Verhurst型を仮定している。1 - exp[-aP(t)]は,寄生者個体群サイズがP[t]の場合における寄主個体あたりの寄生確率を表し,パラメータaは,寄生者による寄生過程の(寄主の探索や寄生行動に関わる)効率を意味する。cは,寄生を受けた寄主個体あたりの寄生者の増殖(期待)率を表す。本研究において本質的に重要なパラメータσ(0<σ<1)は,寄主各世代における個体群削減の強度を表す。すなわち,1 - σは,寄主個体が削減から逃れる確率を表している。この数理モデリングにおいては,基本的に,削減操作の対象は,寄主であると仮定する。ただし,寄主個体群を対象にした削減操作が寄生者個体群にも削減効果を及ぼさざるを得ない場合を考えており,寄主個体群に対する削減強度σの場合に, 寄生者個体群に及ぶ削減効果の強度をg(σ) (0< g(σ) <1)で与える。この寄生者個体群削減効果強度g(σ)は,寄主個体群削減効果強度σの関数として与えられるものである。
パラメータσおよびg(σ)は,上記の離散力学系においてはいずれも定数として機能するので,本研究では,まず,上記の離散力学系の定常状態の性質を解析的手法および数値計算によって調べ,その結果を用いて,σとg(σ)の定常状態への寄与の特性に関する生態学的な議論を行う。とりわけ,定常状態における寄主個体群の時間平均サイズ(平衡値をとる場合にはその値自身)の大きさに対する寄与を調べることによって,寄主を対象とした削減効果が(寄生者個体群にその効果が及ぶことによって)必ずしも寄主個体群サイズを抑制するとは限らない可能性を検討する。
初期値に依存して定まる中立安定な無限個の周期軌道を解としてもついわゆるLotka-Volterra捕食者−被食者系に定数削減率の項をつけくわえた次のシステムにおける系の崩壊(捕食者もしくは被食者の絶滅)についての特性の生物数理的な研究を行った:
x_t = ax - bxy -θγ
y_t = -cy +μbxy -γ
xとyは,それぞれ,被食者個体群サイズ,捕食者個体群サイズを表す。パラメータaは,被食者の内的自然増加率,bは,捕食率,μは,捕食者が摂取エネルギーを繁殖に転換する効率に相当する。γが捕食者の削減定数,θγが被食者のそれであり,θは,被食者と捕食者の削減定数の比を表す。本研究では,特に,捕食者への削減操作による系の崩壊に着目する。したがって,この観点に立てば,θは,捕食者削減操作の不確定性(エラー)による被食者個体群へのダメージ(無作為的削減)の程度を表す。本研究では,0 < θ < 1の定義域とする。 上記の系では,初期値x(0), y(0)が共に正であっても,ほとんどの場合,有限時間で捕食者あるいは被食者の個体群サイズはゼロとなる。そこで,上記の系に対して,xもしくはyがゼロになった時点から以降,その変数の値はゼロに固定するというルールを付加する。このような数理モデルにおける捕食者あるいは被食者の絶滅によって生じる系の崩壊について,系崩壊までの時間,および,それまでの被食者個体群サイズの時間平均値についての特性を,主に数値計算によって解析した。その結果,系崩壊までの時間は,初期条件に依存するが,同じ初期条件に対しては,パラメータγの冪乗に比例することが示唆された。一方,系崩壊が,被食者あるいは捕食者,いずれの絶滅によって起こるかについては,パラメータγおよびθに単純でない関係をもつことがわかった。いずれのパラメータへの依存性においても,系崩壊が被食者の絶滅によって起こるパラメータ領域は可算個の不連続な区間の集合であり,それぞれの連続区間内において,系崩壊が起こるまでの被食者個体群サイズの時間平均値は,いずれのパラメータについても,単調な関係とは必ずしもならない。とりわけ,相対的に小さなγやθの範囲においては,これらのパラメータがより大きいと,その時間平均値がより大きくなるようなパラメータ領域が存在している。
さらに,本研究では,上記の系のパラメータγについて,時間周期的にゼロとする時間帯(削減効果のない時間帯)をもうけた場合の,この時間帯と削減時間帯の長さの比による系崩壊の特性の変化についても調べた。この時間帯の長さへの依存性においても,上記のパラメータγやθへの依存性と同様のパラメータ領域の可算個不連続な分布が観測された。これらの解析結果をもとに,Lotka-Volterra被食者−捕食者系の削減による崩壊に関する生物数理的な議論を行った。
発表: Lotka-Volterra被食者−捕食者系における個体群削減による系崩壊の特性, 緒方直美・瀬野裕美, 第12回数理生物学シンポジウム,北海道大学水産学部(函館),9月19日−9月21日,2002.
On the Stability of Multi-species System under Temporally Intermittent Ecological Disturbance, H. Seno, ICM2002 Satellite Conference in Mathematical Biology, 桂林市 (Guilin), China, 15-18 August, 2002.
A
mathematical model for stationary travelling wave of epidemic disease with different diffusion coefficients of host and vector.
(媒介者と感染者の拡散速度が異なる場合における伝染病伝播速度に関する数理モデル解析)
伝染病において,その個体群ダイナミクスを考える場合は,感染率,感染による死亡率,感染経路などが重要であるが,そこに空間的な広がりも考える場合には,拡散速度,伝播速度も重要になってくる。とくに,伝染病が感染者と非感染者との接触によって伝染するのではなく,伝染病媒介者が存在し,感染者と非感染者の間での病原体の受渡しを行なっているような場合には,感染者と媒介者が別の種の生物であることから,それぞれが異なった拡散速度を持っていると考えられ,その結果,それぞれの伝播速度も異なることが考えられる。本研究では,とくに,感染者の伝播速度をその伝染病の伝播速度とし,それと感染者,媒介者の拡散速度の関係について考察するための数理モデルを構築し,その解析結果をもとに議論を進めた。Kermack-McKendrickモデルを媒介者と宿主(それぞれ感染者と非感染者からなる)の関係に応用し,それらがランダム拡散していると仮定して,四元の一次元空間における反応拡散方程式系による伝染病伝播ダイナミクスを構築した。病原体を持っていない媒介者は感染者との接触によって感染し,非感染者は病原体を持った媒介者との接触によって感染すると仮定し,また,感染者の中で回復したものが再感染可能であるとし,そのような回復者を非感染者に再度加える。さらに,いずれの個体群においても,死亡,繁殖などはないとする。この反応拡散方程式系による数理モデルの解析より,常に定常進行波が存在し,感染宿主と感染媒介者の分布伝播速度は,ともに同一の速度へ収束し,その速度を感染率,初期密度,宿主と媒介者の拡散速度であらわすことができた。また今あげた,どのパラメータに関しても,速度は単調増加することもわかり,それらのパラメータ値の速度への寄与について議論を行った。
発表: 媒介者の拡散による病気伝染の数理モデルにおける定常進行波に関する考察, 日本応用数理学会2001年度年会, 九州大学(福岡市東区), 2001年10月7日-10月9日.
On
Travelling Wave of Disease Infection with Diffusing Epidemic Vector, International Conference on Mathematical and Theoretical Biology And Annual Meeting of the Society for Mathematical Biology Joint with Japanese Association for Mathematical Biology, Hawaii Naniloa Hotel (Hilo, Big Island, Hawaii, USA), 2001年7月14日-7月22日. → abstract.pdf
A mathematical model for the occurrence of periodical outbreak in population mixed with a variety of life cycle lengths.
(生活環の長さが異なる個体の混在する個体群における周期的大発生生起に関する数理モデル研究)
周期ゼミ(Magicicada)と呼ばれるセミの生活環は13年,あるいは17年という素数の長さをもち,その生活環の周期で,各々が大発生を起こす。このセミは,最後の数週間だけを成虫として繁殖活動を行なうが,それまでの期間は,地中で幼虫として過ごす。生活環の長さは,地中での幼齢期間の長さによるものである。大発生する年は13年ゼミ,17年ゼミが全て揃っているのではなく,個体群によって異なる。発生する年が同じものをまとめてブルード(brood)とよび,地理的に同所では一つのブルードのみ存在していることが報告されている。Hoppensteadt & Keller(1976)は捕食飽和仮定と地中の環境許容量仮定によって数理モデルを構成,解析し,この問題に関する理論的な考察を行なった。捕食飽和仮定とは,捕食者の捕食量に限界があり,その量までは必ず捕食するが,それ以上の捕食は行なわない(行なえない)というものである。捕食飽和性の下では,一つのブルードの個体数が十分に多くなければ,捕食によりそのブルードは絶滅する。一方,環境許容量仮定とは,地中に生息可能な個体数あるいは密度に,環境条件による上限があるというものである。Hoppensteadt &Kellerは,彼らの数理モデルに関して,毎年同じ数だけ成虫が現れる「継年発生」,一つのブルードのみが生き残り,周期的大発生をする「周期発生」のそれぞれについての存在条件を求めた。彼らの数理モデルにおいては,「継年発生」と「周期発生」がともに存在可能な場合,「周期発生」のみ存在可能な場合,両方とも存在不可能な場合がある事が示された。本研究では,Hoppensteadt &Kellerと同様に,捕食飽和仮定と地中の環境許容量仮定に基づいているが,生活環の長さの異なる個体群が同所で共存している状態で,それぞれの齢構造も考慮した数理モデルを構築,解析した。単一の生活環の長さをもつ個体群のみが存在している場合の,毎年全てのブルードの卵の個数が同じだけ現れる平衡点「継年発生」と,一つのブルードのみが生き残り,周期的大発生をする平衡点「周期発生」のそれぞれの存在条件を求めた結果,捕食の強さが強くなるにしたがって,「継年発生」と「周期発生」がともに存在可能,「周期発生」のみ存在可能,両方とも存在不可能と変化することがわかった。また,2i年周期の平衡点の存在について考察し,このような平衡状態は存在し得ないことが示された。
一部の動物では,小さいときは雌,大きくなると雄に性転換するもの,逆に,小さいときは雄,大きくなると雌に性転換するものが知られている。本研究では,後者を取り上げる。性転換がどのように起こるかによる個体群変動の相異を,性転換開始時期,性転換率,雄と雌の交配のしやすさの効果に着目して考察する。個体群を,シングル雄,シングル雌,繁殖可能カップルの3つに大別し,それぞれの個体群密度分布ダイナミクスを偏微分方程式系で表した上で,性転換が開始される齢の個体群存続性への影響に注目するため,性転換開始以前の齢にある雄の個体の成す部分個体群サイズを導入して,4つの部分個体群の間の個体群サイズ変動ダイナミクスを記述する常微分方程式系による数理モデルを導出し,解析した。性転換がない場合や齢によらず常に性転換が起こり得る場合,性転換がある齢まではできないとした場合のそれぞれについて解析し,雌の死亡率が雌の出生率よりも小さい(雌の出生率が十分に大きく,雌個体群が存続しやすい)場合,個体群の存続のためには,性転換率が大きいほど,性転換開始齢が遅くならなければならないことがわかった。また,ある値よりも性転換開始齢が遅い場合には,性転換率によらず,存続が可能であることが示唆される。雌の死亡率が雌の出生率よりも大きい(雌の出生率が十分に小さく,雌個体群が存続しにくい)場合,性転換開始齢が早すぎても遅すぎても個体群は絶滅する。従って,性転換開始齢がある限られた範囲内の場合にのみ,個体群は存続できる。性転換開始齢がある閾値より遅い場合と,性転換開始齢が別のある閾値より早い場合には,性転換率によらず個体群は絶滅する。また,雌の死亡率が雌の出生率よりも大きい(雌の出生率が十分に小さい)場合,カップルの形成率が小さすぎるか,カップル形成率が十分に大きくても性転換率が相当に小さいならば,個体群は絶滅に向かう。個体群が存続するためには,十分にカップルが形成されやすい状況で,性転換率がある中庸な範囲の値にあることが必要であることが結果よりわかる。雌の死亡率が雌の出生率よりも小さい(雌の出生率が十分に大きい)場合,性転換開始齢が早すぎると,カップルが形成されやすくても,個体群は絶滅に向かい,個体群存続のためには,十分にカップルが形成されやすく,性転換開始齢がある閾値より遅いことが必要であることが分かる。雌の死亡率が雌の出生率よりも大きい(雌の出生率が十分に小さい)場合,個体群存続のためには,十分にカップルが形成されやすく,ある中庸な範囲の性転換開始齢が必要であることが分かる。つまり,性転換開始齢が遅すぎても早すぎても絶滅する。以上の結果より,雌の存続しやすさによって,個体群の存続条件を満たす性転換開始齢の範囲に相違は見られるが,いずれの場合においても個体群の存続の可能性が最も高くなるような唯一の性転換開始齢が存在していることが示唆された。一般的に動物は自分の遺伝子を多く残す,つまり,多くの子孫を残すような適応戦略を取るように進化したと考えられているが,性転換を行う動物において,性転換のスケジュールを適応戦略とみなすと,個体が利己的に最適な性転換スケジュールをとったとしても,個体群レベルのダイナミクスを考えると,個体群の絶滅を誘引する結果を引き起こす場合があり得るかもしれない。本研究は,性転換という生理的な戦略による, 個体群の存続性への影響の存在可能性を示すための理論的研究であって,実際には,性転換を行うほとんどの魚類で,ハレムなどの社会的構造が繁殖に関わっていることがわかっており,そのような社会的構造下での性転換と個体群動態に関する数理的研究は今後の興味ある課題である。
発表: 性転換を伴う生物個体群の存続性に関する数理モデル解析, 第10回数理生物学シンポジウム, 静岡大学工学部(静岡県浜松市), 2000年10月12日-10月14日.
Persistence
of Population with Age-dependent Sex Reversal, The Second International Conference on Deterministic and Stochastic Modeling of Biointeraction, "DESTOBIO 2000", Purdue University, West Lafayette, Indiana, USA, 2000年8月23日-8月27日.
包括適応度に基づくタカハトゲーム →draft.pdf
(Hawk-Dove game with inclusive fitness)
タカハトゲームにおいて,混合戦略を考える上で,生物の最終目的である「自分の遺伝子を次世代に残す」という事を考慮に入れ,同じ遺伝子(ここでは,同じ戦略と同一視する)を持つ個体間では他の個体の適応度が上がれば自分の適応度も上がり,他の個体の適応度が下がれば自分の適応度も下がると考えてみよう。つまり,タカハトゲームで自分が利益を得たとしても,そのことが他個体の適応度を下げるならば,近縁度で重み付けた分だけ自分の適応度は下がる。同様に,自分が損をしても,そのことが他個体の適応度を上げるならば,近縁度で重み付けた分だけ自分の適応度は上がる。ここでは,同種の(同じ戦略を持つ)個体間の関係の強さを近縁度とし,$r$ $(0 < r < 1)$で表すことにする。ただし,異種(異なる戦略を持つ)個体間の近縁度はない(ゼロ)とする。タカハト混合戦略$p$をもつ個体が占める集団に,戦略$q$をもつ変異個体が現れた時の利得表は,上記のような近縁度$r$によって重み付けされた期待利得の増減分を考慮に入れれば,再構成でき,この時の期待利得(包括適応度)を導くことができる。この場合,$q$をとる変異個体の存在割合は十分に小さいと考え,変異個体同士の出会いは無視できるとする。また,戦略$q$をもつ変異個体と戦略$p$をもつ野生個体との間の近縁度は0とおく。この条件の下で,異なる戦略を持つ変異個体が出現し得る場合,包括適応度に基づくならば,どのような条件でESSが存在して,存在できるESSはどのような生物学的状況に対応するものかについて考察した。その結果,純粋タカ派行動 $(p = 1)$をする個体がESSとなり得る状況においても,ほんのわずかでも血縁度が存在し$(0 < r< 1)$,それをもとにした包括適応度によるゲームを考えた場合には,$p = 1$であっても,$p \approx 1 − r$の程度までの範囲の混合戦略がESSとなり得る。すなわち,血縁度を考慮した包括適応度によるタカハト混合戦略ゲームにおいては,ESSになり得る戦略$ p$の範囲が有意に広がると言える。
Dynamics of immune response against multiple epitopes of viruses.
(複数のウィルス株にさらされる免疫応答系のダイナミクスに関する数理モデル研究)
本研究では,基本的な数理モデルを用いて,突然変異性の高い病原体と免疫系の間のダイナミクスを考察する。研究の焦点は,病原体の多型化に伴う免疫による病原体抑制の破綻が生起する条件である。免疫系は,同時に与えられた負荷を処理する並列計算機のように機能している。それは,多彩な病原体の侵入に対して,個々の病原体に特有な免疫応答を起こしているのである。HIVの場合のように,多様な株を生じうる突然変異性の高いウィルスに対しても,それぞれの株に対する特異的な免疫応答を行う。免疫系は,複数の特殊な役割をもつ細胞によって構成されたネットワークシステムである。とりわけ,病原体がウィルスの場合には,自然免疫(natural immunity)では,適切なウィルス排除ができない可能性があり,いわゆる適応免疫(adaptive immunity)が重要な役割を担う。適応免疫は,そのウィルスに特異的な抗体と細胞損傷性T細胞によって生起する。特異的な抗体は,B細胞を含むいくつかの細胞,生体高分子からなるフィードバックネットワークを介して産生される。さらに,それぞれの特異的な抗体に特異的なT細胞やB細胞が選択的に活性化される。免疫応答の速度は,このような特異的抗体を産生するためのT細胞やB細胞の分裂,更新に時間を要することから,上限があると考えられる。また,上記のように, 免疫系は,並列的に多様な抗原に対する応答を行っているので,病原体の多様性が高くなれば,負荷の並列性からくるそれぞれの応答への影響も大きくなるはずである。したがって,相当に多様性の高い病原体に対して,免疫系の能力がその限界に近くなれば,免疫応答の速度が相当に遅くなると考えられる。HIVの場合において,相当に長い(しかも,分散の大きな)潜伏期の後に,しばしば,病状が激変することが報告されている。最近のいくつかの数理モデル研究によって,病原体の多様性に関して,ある閾値があり,それ以下ならば,免疫応答によって,病原体の増殖が低く抑えられるが,それを超えると,免疫応答では病原体の増殖を抑えきれず,病原体は指数関数的に増加する可能性が示唆されている。過去のそうした数理モデル研究と対照的に,本研究では,そうした免疫系の破綻が免疫系の応答機能の限界性にどのように依存するものかに焦点をおいた数理モデル解析を行った。
発表: Dynamics between Limited Immune Response versus Polymorphic Viruses: A Possible Cause of Hazard, 2nd JSIAM-SIMAI Conference "Biology and Medicine Moving Towards Mathematics", St. Catherine's College (University of Oxford), Kobe Institute, 神戸, 2000年11月13日-11月16日.
.ppt
.pdf
Epidemic dynamics under spatially heterogeneous distribution of susceptibles.
(未感染者分布の不均一性による伝染病の流行様式に関する数理モデル解析)
本研究では伝染病を媒介する単位(以後,伝染媒介体と称する)が空間にどのように分布しているかによって伝染病の拡がり方に違いがあらわれてくる可能性を考え,伝染媒介体の空間分布と伝染病の拡がり方との間の関係について考察する。伝染媒介体を未感染媒介体,感染媒介体,回復媒介体の3種類に分類し,回復した媒介体は二度と感染することはないと仮定する。また,感染,回復は媒介体自体の大きさには無関係であると仮定し,感染,回復のそれぞれの事象は独立したものとして扱う。これらの仮定の下で,媒介体間感染ダイナミックスの数理モデルを構築するために,時刻$t$において感染した媒介体の延べ数が$k$個,現在感染している媒介体数が$h$個である確率$P(k, h, t)$を考え,$P(k, h, t)$の時間変動を表す微分方程式を求め,積率母関数を用いて解析を行った。初期条件としては,感染媒介体が存在しないと感染はおこらないので$k=h= 1$とする。さらに,伝染媒介体の空間分布と伝染病の拡がり方との関係についての数理モデリングを考える。伝染病は媒介体を介して伝染が拡まっていくものであるから媒介体がどのように空間に分布しているかは伝染病の拡がり方の特徴に反映されることが予想される。そこで,本研究では,伝染媒介体の空間配置の特性をフラクタル次元$d$を使って表す。伝染病の拡がり方の特徴を考えていくために,感染媒介体が存在する地域の広さ,すなわち感染レンジを定義する。感染レンジとは過去に感染した媒介体または,現在感染している媒介体全てを含む最小の円盤領域である。この最小の円盤領域の直径を$R$とすると,感染した媒介体の延べ数$k$とフラクタル次元$d$を$k\propto R^{d}$のように関係づけることができる。この関係より,感染レンジの広さを感染媒介体延べ数より求めることができ,さらに,感染レンジの直径の時間微分より,伝染病の拡がる速度を求めることができる。上記のように構築した数理モデルの解析結果より,実際の伝染病流行様式と伝染媒介体の空間配置において,例えば,比較する2つの地域の家屋間の距離が等しい場合,川沿いに連なるように家屋が配置している地域の方が,平野に団子状に密集して集落を成して家屋が配置している地域より,伝染病の汚染域の拡がる速度が速く,感染被害レンジも大きくなる可能性があると考えられる。また,本論文の解析結果では,感染の拡がる速度が一旦減少して,十分に時間が経つと増加に転ずるような時間変化を示す場合があることが示された (Figure~1)。従って,感染初期の感染の拡がる速度が減少しているからといって,感染が衰退していくものとは断言できないといえよう。つまり,感染初期の段階の感染の拡がる速度のみを見て,伝染病が衰退するのか進行し続けるのかという判断をするのは危険であると考えられる。
発表: A Mathematical Model for Invasion Range of Population Dispersion through a Patchy Environment, International Conference on Ecological Modelling 2006 in Yamaguchi, Yamaguchi University, Ube, Yamaguchi, Japan, 2006年8月28日-9月1日.
伝染媒介体の空間分布に依存した伝染病汚染地域の拡大速度に関する確率過程モデル, 感染症理論疫学研究大会2006 --- 数理疫学・数理生態学・数理統計学の融合 ---, 東京大学生産技術研究所コンベンションホール(東京都目黒区駒場), 2006年1月28日.
伝染媒介体の空間分布に依存した伝染病の汚染地域分布拡大速度に関する確率過程モデル, 学際学術プログラム「数理生物学と確率過程 --- 将来の発展のために---」, 金沢大学サテライトプラザ(金沢), 2003年10月31日-11月1日.
未感染媒介体の不均一分布下における伝染病流行様式に関する確率過程モデル解析, 第10回数理生物学シンポジウム, 静岡大学工学部(静岡県浜松市), 2000年10月12日-10月14日.
Koshiba, S. and Seno, H. 2005. A mathematical model for spatially expanding infected area of epidemics transmitted through heterogeneously distributed susceptible units, J. Biol. Syst., 13(2): 151-171.
Seno,
H. and Koshiba, S. 2005. A mathematical model for invasion range of population dispersing through patchy environment, Biol. Inv., 7: 757-770.
パッチ状環境における生物個体群の存続性に関する基礎的な数理モデリングを考え,数理モデルの解析を行った。パッチ状環境においてパッチを利用している単一個体群によって利用されているパッチ数の時間変化を表すダイナミクスとして,メタ個体群ダイナミクスのモデルとして有名なLevinsのモデルを応用し,考えている生物個体群全体の個体群サイズ成長のダイナミクスとしては,ロジスティック方程式を応用した。個体群によって利用されているパッチの数の変動ダイナミクスが,個体群全体の個体群サイズに依存し,一方,個体群サイズの成長速度は,利用しているパッチの数に依存して決まるというダイナミクスを表す2次元の常微分方程式系による数理モデルを構築し,解析した。数学的解析および数値計算によって,生物個体群の存続性が,利用しているパッチの数と個体群サイズの初期状態に依存することが導かれた。また,生物個体群の存続には,個体群が十分に強い移住傾向をもつか,パッチを十分に高い効率で利用できることが必要である結果が得られた。環境の分断化が進行すると,環境内の各々のパッチは矮小化してゆく。この環境分断化の過程を考慮に入れ,数理モデルの解析結果をもとにした議論により,分断化の進む環境内において個体群が存続するためには,パッチの利用効率と移住傾向に関して,分断化の進行に応じた適応変化が必要であることが示唆された。
本研究では,パッチ状に分布する資源を利用するための採餌縄張りの大きさについての数理モデル解析を行った。資源の更新過程に着目し,縄張りをもつ個体について,単位時間あたりの期待獲得資源量を最大にする最適パッチ総数と,パッチ内の資源の生成速度,資源の自然減衰率,パッチ内の資源の消費率,パッチ間の移動時間,縄張りを守るためのコストの関係に関する数理モデルの解析により,一般的な最適採餌縄張りの大きさについて議論を試みた。数理モデルの解析より,質のよいパッチが高密度で分布する,もしくは,個体のパッチ間の移動能力が高く,縄張り内の資源を狙う他個体が少なく,個体の餌の獲得能力が優れている場合に,最適な縄張りのサイズは最も大きくなることが結果として導かれた。この数理モデル解析の結果は,花の蜜を資源とするハチドリの場合についての考察として議論された。短命な花の場合,資源の回復は,再花咲によるものとなり,その場合,資源の回復には時間がかかる。この場合には,空間的に大きな縄張りをもつことが適応的であることが示唆された。一方,長命な花の場合,資源の回復は,花の蜜の再産生によるものとなり,数理モデル解析の結果から,空間的に小さな縄張りをもつことが適応的となる。また,ハチドリのくちばしの形と縄張りとする花の花冠の形がうまく一致するほど大きな縄張りを持ちうる方が適応的であることも示唆された。
なわばりを維持するということは,その個体にとっては,なわばり内の資源をほぼ独占的に利用できるという利益がある反面,なわばりを侵入者から守るための時間やエネルギーの損失を伴う。なわばりをもたない個体の数が増え,なわばりを防衛するためになわばり個体が払うコストが増加した場合,もしも,そのなわばりを維持することによって得られる期待獲得資源量がなわばりを放棄したときのそれよりも小さくなってしまえば,そのなわばりは消滅すると考えることができる。一方,一般的に,個体間には,質の違いが存在する。それは,例えば,体の大きさなどである。この質の違いに基づく集団内の個体の順位を考えることができる。本研究では,各個体に順位が決まっている集団を考え,この集団内の個体がなわばりを維持「しない」ための条件はどのようなものかについての数理的考察を行う。すなわち,集団内になわばりをもつ方が適応的であるような個体が出現しないための条件を求める。一般的な仮定に基づく数理モデリングによって構成された数理モデルの解析によって,アユのなわばり形成に関して知られているように,集団のサイズ(密度)が十分に大きくなるとなわばり形成がおこりにくくなることが理論的に導かれた。
本研究では,Lotka-Volterra型2種競争系に関して,種間競争の時間的間欠性が種の絶滅と存続に及ぼす影響についての数理生物学的考察を行った。2種間に種間競争関係が存在するシーズン(競争シーズン)と種間競争関係がないシーズン(非競争シーズン)があるものとし,この二つのシーズンが交互に永続的に訪れる状況を考え,2種の個体群の絶滅・存続,共存に関する解析を行った。数値計算による解析の結果,永続的競争関係下における場合と比較すると,間欠的種間競争関係下においては,2種の個体群密度の初期状態に依存して,存続性の逆転が起こりうることがわかった。つまり,競争関係に間欠性があることによって,永続的な競争関係下では,種1が生き残り,種2が絶滅するという状態が,種2が生き残り, 種1が絶滅するという状態に入れ替わる可能性がある。また,ある間欠的種間競争下においては,2種の個体群密度の初期状態に依存して,新たに2種の共存も起こり得ることがわかった。このような存続性の逆転や新しい共存可能性は,非競争シーズンの長さ,競争係数の差に強く依存する。たとえば,競争係数の差が大きい場合には,存続性の逆転は起こりやすくなるが,新しい共存は,非競争シーズンが相当に長くなければ起こらないという結果が得られた。本来の競争に関する2種の強弱と,どちらの種が絶滅するかという結果に基づく競争関係の強弱というのは,2種間の競争関係の間欠性によって異なりうることが示唆された。間欠性によるこのような存続性の逆転は,長い時間的スパンでみた種の入れ替わりに関わるものと考えることができるだろう。
発表:Nakajima, H., Yonejima, K., Matsuoka, T. and Seno, H., 2008. Lotka-Volterra two species system with periodic interruption of competition, J. Biol. Syst., 16(2): 295-308.
間欠的競争関係にある2種系の絶滅と共存, 第9回数理生物学シンポジウム, 東京大学大学院数理科学研究科(東京都目黒区), 1999年10月14日-10月16日.
On the Stability of Multi-species System under Temporally Intermittent Ecological Disturbance, H. Seno, ICM2002 Satellite Conference in Mathematical Biology, 桂林市 (Guilin), China, 15-18 August, 2002.
Mathematical
modelling considerations for ecosystem stability with outbreaking second level in three trophic three species food web.
(3栄養段階3種食物連鎖における第2栄養段階の大発生の生態系安定性に及ぼす効果に関する数理モデリングによる考察)
個体数変動において,個体数が顕著に多くなる例がある。それが,大発生(outbreak)と呼ばれているものである。異常な規模の大発生があったとしても,そのためにその大発生種が絶滅するというようなことはなく,後に減少し,また盛り返して増えてくる。つまり,大発生は,長い目で見ると,動物の世界では日常的な変動であるともいえる(森, 1997)。本研究では,種2が種1の捕食者,種3が種2の捕食者であるような,3栄養段階直列3種の食物連鎖関係における種2の大発生についての数理生物学的考察を行った。種2の大発生は何らかの外的な要因によって周期的に起こるものとした。すなわち,種2の周期的大発生は,対象となる食物連鎖関係における種間関係が要因として生起されるものではなく,環境変動に対する感受性の過剰な増大といったような,種2の内在的特性により生起されるものであり,他種とは独立な種2固有の現象と考える。周期的大発生という特性をもつ種2を擁する対象とする直列3種食物連鎖関係において,種2と同じ捕食・被食性を有する新たな第4種のその食物連鎖生態系への侵入可能性について数理モデル解析によって議論した。
A mathematical modeling for baroreceptor control of systemic blood circulation.
(圧受容体による血液体循環調節系についての数理モデリング考察)
圧受容体反射は,血圧の変化を監視し,血圧の変動幅を小さくするための反射系であり,血圧が上昇,低下した時に,瞬時にそれを感知し,血圧変化を緩めるように働く。圧受容体は基礎 状態でも自然発火し,循環中枢に持続的に抑制入力を送っている。そのため,血圧が上昇し,圧受容体が刺激されると循環抑制がさらに強まり,血圧が低下すると,圧受容体への刺激が減少し,循環抑制が弱まる。基礎状態における動脈圧受容体の自然発火は,交感神経血管運動中枢の活動を緊張性に抑制し,副交感神経抑制中枢を緊張性に興奮させている。血圧が低下すると,動脈圧受容体への刺激が減って,インパルス発射頻度が減少し,血管運動中枢に対する抑制が弱まると共に,副交感神経活動が低下し,血管抵抗,心拍数,心収縮性及び心拍出量が増加して,血圧は反射性に設定レベルに戻る。血圧が上昇した場合,これらとは反対方向の反射が起こる。本研究では,生体内の圧受容体を介した神経調節系循制御システムを数理モデル化し,そのシステムにおいて動脈圧が心臓と循環に関するパラメータによってどのように変化するのかを考察した。
A mathematical modelling for handedness of fiddler crab.
(シオマネキ類における鉗脚の左右不相称性に関する数理モデリング)
熱帯から温帯にかけての干潟やマングローブ域に生息するシオマネキ類の特徴は,雄の鉗脚(はさみ)2本のうち1本が非常に巨大なことである。山口(1977, 1978)は,ハクセンシオマネキUca lacteaについて,右大,左大,両小,両大といった特徴を持つ成雄の鉗脚の除去実験を詳細に行った。山口の実験結果によれば,幼ガニ期の雄については,脱落した鉗脚の再生サイズは小になり,鉗脚脱落のなかった場合には成ガニ期で鉗脚は両方大になる。一方,鉗脚が両方とも巨大な成雄の両鉗脚の除去実験によって再生してくる鉗脚は両方小になるが,それ以外の場合(右大,左大,両小)の鉗脚の脱落は,鉗脚のサイズの左右不相称性を変えない。このような幼ガニ期における鉗脚脱落後の鉗脚再生と成ガニ期におけるそれの様相の違いについての生理的な機構は全くわかっていない。本研究では,山口の鉗脚再生に関する実験結果を説明できる生理的機構についての仮説を立て,その生理機構を表現する数理モデルを構築し,解析した。この数理モデルにおける鉗脚脱落の時期や脱落の繰り返しによって,鉗脚再生の結果として生起する鉗脚の左右不相称性のパターンに関する数理的解析の結果に基づき,この数理モデルによって山口による実験結果を適切に記述できること,さらに異なる実験による再生結果の予想,そして,ハクセンシオマネキの場合とは異なる再生パターンの存在可能性が示された。
発表:シオマネキにおける鉗脚の左右不相称性生起に関する数理モデリング, 第8回数理生物学シンポジウム 研究集会Mathematical Topics in Biology, 京都大学数理解析研究所, 1998年10月15日-10月17日. → abstract.pdf
Population dynamical modelling considerations for coexistence between mimic and non-mimic.
(ベーツ型擬態における擬態型と非擬態型の共存様式に関する個体群動態モデル解析)
擬態(mimicry)とは,動植物が風景などの無生物や他の動植物に自分の形態を似せることである。捕食者に対する防御機構を持っていない種が,それを持っている種に形態を似せるような擬態を「ベーツ(Bates)型擬態」と呼び,前者をミミック種,後者をモデル種と称する。そのような擬態の場合,ミミック側からみると,モデルが捕食されることにより,自分も捕食されにくくなるという利益が見込めるのに対し,モデル側からは,ミミックが捕食者に捕食されてしまうと,捕食者の学習効果が下がり,捕食されやすくなってしまうという,防御機構の効果低減という影響を被ることになる。ミミック種が受けるこのような利益は,モデル種との類似度が大きいほど,また,モデルの防御機構や警告色が強いほど大きくなる。さらに,ミミックの相対頻度が低ければ,ミミック種を捕食する確率が低くなり,その結果,捕食者の学習能力も長時間平均として下がりにくいので,ミミック側の受ける利益も大きくなる。ベーツ型擬態の中には,雌のみ,かつ,その一部のみが擬態している種がある。つまり,その種の雌については,擬態型と非擬態型とが混在している。北アメリカに生息しているオオトラフアゲハP. glaucusにおいては,雌の一部がアオジャコウアゲハBattuphilenorによく似た形態をしている。オオトラフアゲハの雄は全てが黄色の非擬態型で,雌は黒色の擬態型と黄色の非擬態型の2型が存在する。よって,雌の擬態型と非擬態型の頻度に,これらの捕食者である鳥の学習効果が依存するので,これら2つの型各々に対する捕食圧は,そうした捕食者の性向に応じて変化するはずである。これはスウィッチング捕食の一種と考えることができる。調査により,ここで述べたオオトラフアゲハの場合は,非擬態型の雌の方が雄に求愛されやすく,繁殖率が高いことが報告されている。本研究では,このような擬態型と非擬態型が共存するようなベーツ型擬態に着目し,捕食者,モデル,ミミック,ノンミミックの個体数頻度に関する個体群動態の数理モデル解析により,ミミックとノンミミックが共存するための条件やその平衡頻度などに関する考察を行い,それらの生物学的議論を試みた。特に,ノンミミックが存在しないベーツ型擬態のシステムとの対比を行うと共に,擬態型と非擬態型の繁殖率の差が,共存する条件やその頻度にどのように影響を与えるのかを考察した。
Mathematical model consideration for spatial pattern of leaf vein ending.
(葉脈の脈端パターン形成に関する数理モデル研究)
草木の葉にみられる葉脈の二次元パターンは比較的単純な極性を持つものからランダムに見えるものまで多様である。次数の低い太い葉脈のなす空間パターンは主に葉全体の形に依存して力学的に葉を安定させる構造をなすものとして理解することができるが,脈端レペルにおける葉脈のなす空間パターンは植物の代謝機能に関わって形成されるものと考えられる。実際,葉全体の形によらず脈端レベルで見られる葉脈パターンは類似したものを観察できる。この研究では,葉脈の脈端パターンの形成を,葉脈形成層細胞の葉脈分化のダイナミクスに関する数理モデリングによって考察しようとした。離散セル空間における細胞分化促進酵素オーキシンとその働きを阻害する酵素アンチオーキシンの拡散反応ダイナミクスを与える力学系モデルの定性的解析および数値計算によって,数理モデル解析を行った結果,葉脈端の空間パターン形成におけるダイナミクスに関する議論を行った。
A mathematical model analysis for chromosome abnormality inheritance.
(異常染色体遺伝に関する数理モデル解析)
先天性染色体異常によるダウン症については,さまざまな医学的研究がなされているが,未解決な問題が山積みである。しかし,医学的研究によって,その発生率が,より高齢な女性による出産において(指数的に)より高まること,90%以上の場合に卵子形成における異常がその原因であると考えられることがわかっている。この研究では,卵子形成異常を起こす遺伝子情報の存在を仮定し,集団遺伝学的数理モデリングを行うことによって力学系による数理モデルを構成し,現代におけるダウン症発生率の理解を試みた。結果,ダウン症発生率と卵子形成異常を起こす遺伝子情報発現率との間の関係式を得た。
Some mathematical modeling considerations for diurnal changes of morphine concentration in Papaver Somniferum.
(ケシ植物におけるモルフィン生成の時間変動特性に関する数理モデリングによる考察)
植物には,特定の化学物質を生成し,自己防御に用いるという能力(アレロパシー)を有するものが少なからずあることが知られている。化学物質の同定は労力のかかる研究であるが,同定技術の進歩とともにさまざまな植物種のアレロパシー物質が同定されてきた。一方,植物によるアレロパシー物質生成は植物の代謝過程に依存しながら時間的に変動することが報告されている。その時間的変動は,植物の自己防御機能としての適応という観点から理解できると考えられるが,そのような生理生態学的な研究はほとんど進んでいない。この研究においては,ケシ植物によるモルフィン生成の24時間における化学物質濃度変動のデータを基に,数理モデルを用いたデータ分析,その結果によるケシ植物によるモルフィン生成時間変動パターンの理解を試みた。モルフィン生成の化学過程を基に化学反応論的数理モデリングを行い,植物代謝によるその化学過程の調節という観点から,数理モデルのパラメータの時間変動パターンを実際のデータを用いて推定することによって,植物による化学物質生成調節に関する考察を行った。
A mathematical modelling for transition of plant distribution with competing seed dispersal.
(拡散種子間に競争のある植物個体群の空間分布に関する数理モデル解析)
ある植物の個体群密度空間分布パターンを,その植物の種子の空間分散,種子の間の成長に関する競争という二大因子から理論的に考察しようとした数理モデル解析である。個々の植物個体による種子の空間分散に関しては,種子分散戦略に依存して,その空間分散パターンの特性が決まることが生態学研究によって示されている。この研究における種子分散の数理モデリングは,拡散方程式のようなダイナミクスを仮定するのではなく,植物個体個々による種子分散の空間パターンを予め仮定として与えている。基本的数理研究として一次元連続空間における離散時間力学系による数理モデルを考察し,植物の個体群密度空間パターンの定常状態についての議論を行った。
Transition matrix modelling on disturbance-controlled survival of plant population.
(植物個体群の撹乱による存続に関する遷移行列モデリング)
絶 滅危惧植物種の中には,カワラノギクのように人工的な環境安定化の影響を受けて絶滅に瀕するものがある。カワラノギクの場合は,河川の治水整備の結果による洪水頻度の低下がその絶滅傾向を引き起こしたと考えられる。そこで,この研究では,植物個体群動態の数理モデリングの定型である遷移行列を用いた数理モデルによって,種子,ロゼット,結実個体の三つのクラスからなる植物個体群に時間的に周期的な撹乱が働き,種子の一部を除いた個体が一掃されるような過程を記述し,そのような撹乱がない安定した環境では種間競争などの原因で存続できないような一年生植物個体群が時間 的に周期的な撹乱を利用して存続できる可能性を議論することを試みた。数理モデル解析の結果,植物個体群は,その増殖特性,生活史特性を周期的撹乱を利用できるように適応させれば存続性を高めうることが導かれた。
発表:Giho, H. and Seno, H. 1997. Transition matrix modelling on disturbance-controlled persistence of plant population, Ecol. modelling, 94: 207-219.
Some mathematical considerations on offspring desertion timing.
(子捨てのタイミングに関する数学的考察)
動物における親による子の世話停止のタイミングは,親の繁殖戦略として理解できる場合が少なからずある。ある種のハイエナの場合には,子の誕生ののちしばらくは両親による子の世話が観察されるが,後,オス親は配偶相手と子を捨て,他のメスとの配偶を求めることが報告されている。そこで,この研究では,オスによる複数回の配偶が可能である場合に,二回目以降の配偶から期待される繁殖成功を一定と仮定し,初めての配偶によるオスの子の世話の期間の長さ,つまり,オス親による妻子捨てのタイミングの繁殖戦略としての最適性を数理モデル解析によって議論することを試みた。結果,繁殖期のいつ最初の子をもうけたかによってオス親による子の世話の期間の長さがどのように異なるかが導かれ,繁殖期の早期にもうけた最初の子の世話の期間は短い傾向の期待されること,ある閾値を越えて晩期に最初の子をもうけたオス親は,その閾値以前に最初の子をもうけたオス親による子の世話行動とは不連続に異なって,子捨てを行わないことが期待できるという結論が得られた。
発表:Seno, H. and Endo, H. 2007. A mathematical model on the optimal timing of offspring desertion, J. Theor. Biol., 246: 555-563.
A mathematical modelling on population dynamics for brood-parasitism: What is the benefit for host?
(托卵における個体群動態に関する数理モデリング:宿主にとっての利得は何か?)
アフリカのタンガニーカ湖に生息するナマズの一種は卵の世話を一切せず,口内飼育を行う他の種の硬骨魚の卵にその卵を潜り込ませるという托卵行動を行う。このナマズの稚魚は宿主となった硬骨魚の卵や稚魚を捕食し,高い生存率を獲得するが,托卵の成功率はかなり小さなものであると考えられる。一方的に害を被っているように思われる宿 主種とこのナマズとの種間関係が安定した環境で長期間安定して存続してきたのはなぜであろうか。この点を議論するために,ナマズ種-宿主種間の二種個体群ダイナミクスを記述する離散力学系を構成し,二種の共存可能性に関わる数理的解析を行った。解析結果を考察した結論は,托卵を介したこの二種の種間関係は宿主種個体群の存続性を高める結果を導いているというものである。
発表: Haraguchi, Y. and Seno, H. 1995. Mathematical model of the population dynamics of brood-parasitism: What is the benefit for the host?, J. Theor. Biol., 174(3): 281-297.
Stationary rank-size relation for community of logistically growing groups.
(ロジスティック成長する群れからなる群集における定常ランク-サイズ関係)
都市の人口など多くの実際例によるランク-サイズ関係には典型的なものがいくつか報告され,それぞれのランク-サイズ関係の意味に関する議論は古くから続いてきた。この研究では,独立した部分集団(=群)からなる集団を考え,各群は時間的にロジスティック成長するサイズを持ち,サイズに比例する確率で新しい集団を生み出すという過程に従って形成されるとした場合に,集団内の群サイズに関する定常頻度分布を導く数理モデルをvon Foerster方程式によって構成し,解析した。数理的解析の結果,古典的な典型的ランク-サイズ関係を特別な場合として含むような一般的なランク-サイズ関係が導かれた。また,得られた一般的なランク-サイズ関係は,集団の有する個体群ダイナミクスの特性によって古典的な典型的ランク-サイズ関係のいくつかを分類する結果も得られ,それらの典型的ランク-サイズ関係のそれぞれが得られる集団の特性を表現しうるものであることも示された。
発表: Matsumoto, H. and Seno, H. 1996. Stationary rank-size relation for community of logistically growing groups, J. Biol. Systems, 4(1): 83-108.
On predator's invation into a multi-patchy environment of two kinds of patches.
(二種類の複数のパッチからなる環境への捕食者の侵入可能性に関する数理モデル解析)
複数のパッチからなる環境(分断化された環境;諸島のような環境の空間構造)を考える。何らかの原因(汚染,富栄養化など)によってシステムをなすパッチの一部が他のパッチとは異なる環境を有する状況を考える。この環境異変は,その異変パッチに生息する生物個体群動態に影響を与えると考えられる。特に,被食者-捕食者の二種系を考え,被食者は各パッチに定住するような個体群(例えば植物個体群)で環境異変に影響を受けるものとし,捕食者はパッチ状環境内でパッチ間の移住を行いながら生息しているものとする。この二種系のダイナミクスを表す力学系によって記述される数理モデルを構成し,数理的に解析することによって,二種の共存性,すなわち,捕食者の存続可能性を議論した。特に全システムにおける異変パッチの割合がどのように捕食者の存続可能性に寄与するかについての解析を行い,生態系における汚染や富栄養化の生態系への影響に関する議論を試みた。
発表: Matsumoto, H. and Seno, H. 1995. On predator's invation into a multi-patchy environment of two kinds of patches, Ecol. Modelling, 79: 131-147.
Some mathematical considerations on parent-offspring conflict phenomenon.
(子の独立時期についての親子間対立に関する数理モデル解析)
動物における子の親からの独立時期の決定には,親子の間の要求の不一致の時期を経ての妥協が働いていることがいくつかの観測例(アカゲザル,鴨など)から生物学的に議論されている。この研究においては,子は自らの生存率を,親は生涯繁殖成功度(現時点以降において期待される繁殖成功度)を意志決定の評価因子として用いるとして,それぞれの最適決定を定める数理モデルを動的計画法によって構成し,解析した。その結果,親側の評価による子の最適独立時期は常に子側のそれよりも早く,そのずれは親の年齢が若いほど大きくなる傾向があることが導かれた。また,親子間のそのような意志不一致による親子間対立のコストを導入することによって,親子間対立解消の数理モデリングを行い,その数理モデル解析によって,親子間対立の結果による子の独立時期は,親の年齢が進むにつれて遅くなる傾向も得られた。
発表:動物行動の最適理論に関するモデリングの側面,瀬野裕美,第11回RAMP(数理計画研究部会)シンポジウム,九州大学国際ホール[箱崎キャンパス](福 岡県福岡市東区), 1999年10月18日-10月19日.
ダイナミックプログラミングによる動物生態の数理モデリング:1)親子の別離タイミング 2)托卵→抱卵へのスイッチ タイミング,瀬野裕美,日本生態学会近畿地区会1996年第一回例会,奈良教育大学, 1996年4月.
Tokuda, H. and Seno, H. 1994. Some mathematical considerations on parent-offspring conflict phenomenon, J. Theor. Biol., 170: 145-157.
Seno, H. and Tokuda, H. 1994. Some mathematical considerations on parent-offspring conflict phenomenon(子の独立時期についての親子間衝突に関する数理モデル解析), 京都大学数理解析研究所 講究録, 870: 227-238.
Some Mathematical Considerations on Parent-Offspring Conflict Phenomenon, 研究集会 Mathematical Topics in Biology:第4回数理生物学シンポジウム, 京都大学数理解析研究所, 1993年10月19日-10月21日.
Mathematical modelling consideration on AV-node action potential spectrum.
(心臓房室結節における活動電位スペクトルに関する数理モデリング考察)
人や動物の心電図のパワースペクトルの高周波数成分においてベキ関係が得られるという生理学的研究結果に関する数理モデル研究を試みた。心臓房室結節における活動電位決定の数理モデルとして本質的な要因のみを考慮した非線形力学系によって拍動リズムを記述し,その定常リズムが生成する波形から得られるパワースペクトルの高周波数成分の性質を数理的に解析した結果,ベキ関係を得た。ただし,そのベキ関係におけるベキ指数は2であり,人のデータから得られる3〜4とは異なること,両生類などの単純な神経回路構造を持つ心臓の活動電位データから得られるベキ指数が2に近いこと,を考慮すると,複雑な神経回路網による拍動リズム生成をコントロールしているような心臓における活動電位のパワースペクトルの高周波数成分におけるベキ関係は,そうした複雑な神経回路網による拍動リズム生成コントロールのダイナミクスの影響を総体的に反映している可能性が示唆された。
発表: Koide, C. and Seno, H. 1994. Mathematical modelling consideration on AV-node action potential spectrum, Forma, 9: 51-66.
心臓房室結節におけるパワースペクトルのべき則に関する数理モデル解析, 日本生物物理学会第31回年会, 名古屋大学・名古屋, 1993年10月.
Mathematical Modelling Consideration on AV-node Action Potential Spectrum, 4th NIMC Forum: International Workshop on Dynamism and Regulation in Non-linear Chemical Systems, H. Seno and C. Koide, 通商産業省工業技術院 物質工学工業技術研究所(茨城県つく ば市), 1994年3月22日-3月25日.