注意 以下のメールアドレスの後に tohoku.ac.jp をつけて下さい。
宗政 昭弘 (Munemasa, Akihiro)
教授
munemasa@
鮑 園園 (Bao, Yuanyuan)
准教授
yybao@
(A01-1) 宗政研究室の研究テーマは以下のとおりです。
1970年代、Delsarte によって符号理論とデザイン理論に統一的に線形計画法を応用する枠組みとして発展してきた association scheme の理論は、有限群の作用する空間の一般化として代数的グラフ理論、代数的符号理論、組合せデザイン理論を支える一方、その後独自の発展を遂げています。そこで、association scheme の基礎となっている、グラフの固有値の研究、有限群とその表現論、線形代数学と最適化に関連した代数学を、組合せ論に応用する手法を研究します。
符号とは、有限体上の有限次元ベクトル空間の部分空間という極めて単純なものですが、組合せ論の問題を代数的に研究する道具である一方、格子に関連して整数論、特に保型形式の格好の応用対象でもあります。符号の中でも特に面白い性質を持つ自己双対符号は、ユニモジュラ格子を通して球の詰め込み問題にも関連しています。これらの符号や格子の構成と分類を、主に代数的手法を用いて研究します。
宗政研究室では、上記のような研究に興味を持った学生を大学院新入生として歓迎します。受験する段階では専門用語すべてを知っている必要はありません。上に書かれた専門用語のうち一つでも知っているものがあってそれに興味があれば結構です。どのような研究をするにしろ、また大学院の入学試験に合格するためにも、基礎はしっかり勉強しておく必要があります。まず、理系なら大学1年生で必ずといっていいほど必修である、線形代数学をきちんと勉強しておいてください。単に行列式の計算ができるとか、連立方程式が解けるとかだけではなく、次元、一次独立などの概念を把握し、定理の証明を理解するように努力することが重要です。
参考書は、
(1) 佐武一郎:「線形代数」共立出版
(2) 佐武一郎:「線形代数学」裳華房
で、(1) の内容は100% 理解しておくべきで、(2) の内容は 50% くらいは理解しておけば十分でしょう。また、理学部数学科出身の学生ならば代数学の基本を学ぶ機会があったはずですから、それをきちんと身につけておくことが必要です。
例えば
(3) 松坂和夫:「代数系入門」岩波書店
で勉強すればよいでしょう。一方、理学部数学科出身でない学生は、(3) は自習するには難しいかもしれません。徐々に数学的な考え方に慣れつつ代数学に近づくためには、
(4) Norman Biggs:「Discrete Mathematics」Oxford University Press
で勉強するとよいでしょう。大学院に入学すればいずれ英語の専門書や論文を読むことになりますから、今から英語の本を読む練習をしておくことは将来のためでもあります。どうしても日本語で読みたいという人は、
例えば
(5) 野崎昭弘:「離散系の数学」近代科学社
で勉強することをお奨めします。
これまでに在学した大学院生の出身大学は多岐にわたっています。学部を卒業した大学とは異なる大学の大学院で勉強することは、自分の世界を広げるチャンスでもあります。また、研究を通して、単なるリテラシーにとどまらない、コンピュータの知識、技術を卒業までに身につけることができ、これまでの学生はそのような技術を生かした職場へ就職しています。
(A01-2) 鮑研究室の研究分野は低次元位相幾何学です。主に3次元空間にある曲線(結び目)とグラフ(空間グラフ)、そして3次元多様体を研究対象としています。
2次元平面上の単純閉曲線は、ジョルダン・シェーンフリースの定理により、必ず円板を張ります。3次元空間にある単純閉曲線なら、円板を張らないものもたくさんあります。次の図(a)(b)は円板を張る閉曲線の例で、(c)(d)は円板を張らない閉曲線の例です。よって、3次元空間にある曲線の“形相”を調べることは興味深い課題になります。
上のような閉曲線のことを位相幾何学では結び目と呼びます。線を切ることなく一方から他方へ変形できる時、本質的に同じ結び目(同値な結び目)と考えます。円板を張る結び目は図(a)の円周と同値です。図(c)と(d)は両方とも円板を張らないが、同値な結び目ではありません。結び目理論では、この考え方のもとで、結び目の同値性や位相的な性質を様々な手法を用いて研究しています。以下、結び目を研究する方法をいくつか紹介します。
多様体の基本群やホモロジー群を使って結び目を研究することができます。3次元空間から結び目の開近傍を除くと結び目補空間という境界付き3次元多様体を得ることができます。結び目補空間の基本群から結び目に関する様々な情報が得られます。例えば、Alexander 多項式という古典的不変量は基本群の群表示から計算できます。
上のような古典的な手法以外、Jones 多項式をはじめとして数多くの新しい結び目不変量が1980代以降発見されました。それらの不変量は現在量子不変量と呼ばれ、量子群とその表現を用いて構成することができます。この構成法がとても強力で、古典的不変量である Alexander 多項式も量子不変量として再構成することができます。
2000年前後、Ozsváth と Szabó は Lagrangian Floer ホモロジーを利用して、Heegaard Floer ホモロジーと呼ばれる3次元多様体及び結び目の不変量を作りました。この不変量の位相的な応用として、結び目同境群、結び目解消数、結び目の手術などについての研究がたくさんあります。現在、このホモロジーの量子不変量との関係について注目され、多くの研究結果が出ています。
代数や解析など、数学の多くの考え方は結び目の研究に生かされているのが現代結び目理論の特徴だと思います。
一次元単体複体(グラフ)の3次元空間への埋め込みを空間グラフと呼びます。空間グラフは結び目の拡張として重要な研究対象であり、高分子化合物の数学的モデルとしても注目されつつあります。結び目に関する理論があれば、この理論を空間グラフまで拡張できるかどうかが自然な疑問です。例えば、量子不変量は結び目からグラフへの拡張が基本的に可能です。一方で、結び目解消数や結び目のザイフェルト曲面など、空間グラフへうまく拡張できない概念もたくさんあります。
局所的に3次元空間と同相であるような可算基底を持つ Hausdorff 位相空間を3次元多様体と言います。結び目から3次元多様体を構成する方法がいくつか挙げられます。先ほど述べた結び目補空間以外、分岐被覆と Dehn 手術を用いて考える方法があります。任意の向き付けられた閉3次元多様体は、3次元球面の結び目での分岐被覆として実現されます(Alexander の定理)。そして、任意の向き付けられた閉3次元多様体は絡み目に沿った手術で得られます(Kirby Calculus)。このような関係のもとで、結び目の研究と3次元多様体の研究は、相互に影響を与え合います。
当研究室の研究分野に興味があれば、どうぞお気軽にメールでお問い合わせください。
次の二冊は結び目とはどういうものかをわかりやすく説明してくれた本です。高校生向けですので、予備知識がなくても読めます。練習問題を解いてみって面白いと感じるかどうか、試してみてください。
(1) 村上斉, 結び目のはなし, 日本評論社
(2) Colin Conrad Adams, The Knot Book, W.H. Freeman and Company, New York, 1994.
次の三冊は結び目理論を勉強したい学部四年生また修士一年生におすすめの本です。
(3) W.B.R. Lickorish, An Introduction to Knot Theory, GTM 175, Springer-Verlag, New York, 1997.
(4) Dale Rolfsen, Knots and links, Corrected reprint of the 1976 original, Mathematics Lecture Series, 7, Publish or Perish, Inc., Houston, TX, 1990.
(5) 村上斉, 結び目理論入門(上), 岩波書店
次は結び目の量子不変量について知りたい方におすすめの入門書です。
(6) 村上順, 結び目と量子群(すうがくの風景), 朝倉書店
須川 敏幸 (Sugawa, Toshiyuki)
教授
sugawa@math.is.
(A02-1) 須川研究室では複素1変数函数論を中心に、リーマン面、タイヒミュラー空間、クライン群、擬等角写像、Loewner方程式、複素力学系・フラクタルなどの周辺分野を研究していますが、特に以下の対象に興味を持っています。
解析函数(特に等角写像)の性質を幾何的に研究したり、逆に解析函数の持つ深い性質を利用してリーマン面の幾何学を研究したりしています。等角写像は流体力学や電磁気学などにも応用を持っています。
リーマン面の複素構造の変形を考える際に今や必要不可欠となった概念です。特に解析函数が全平面の擬等角写像に拡張できるための条件や、退化ベルトラミ方程式についても研究を行っています。退化ベルトラミ方程式は超音速での気体の流れの解析に応用があります。また、擬等角写像は最近の脳科学にも応用されつつあります。
楕円函数・特殊函数を含む古典理論から、複素力学系、微分従属式、タイヒミュラー理論、シュワルツ微分などをキーワードとする現代理論まで広くカバーしています。
[リーマンゼータ函数の表現例:高さは絶対値、色相は偏角を表す。]
複素解析学をさらに深く勉強したい人は言うに及ばず、コンピュータ実験によって何か面白い数学的現象を観察したい人、新しい公式を発見したい人、とにかく計算が好きな人など、個性的な学生を歓迎します。また、社会人・留学生も積極的に受け入れます。
田中 太初 (Tanaka, Hajime)
教授
htanaka@
本研究室では、代数的グラフ理論、及び関連した組合せ論や離散数学を研究対象としています。
有限グラフにはいくつかの方法で実対称行列を対応させることができ、これらの行列の性質、特に固有値や固有ベクトルの観点からグラフの構造を調べるのが代数的グラフ理論です。学部時代に学んだ線形代数学の知識を深める上で恰好のトピックだと言えます。一方、代数的グラフ理論と相性の良い、正則性の高いグラフ (強正則グラフ・距離正則グラフ・association schemes 等) の具体例には有限群の作用等を用いて代数的に定義されるものが多くあります。このため、代数学 (群論・環論・体論)、特に有限体についていくらか学んでおくと、大きなアドバンテージになるでしょう。
代数的グラフ理論と密接に関わっているテーマとして、グラフ上のランダムウォークや、その量子力学版である量子ウォークがあります。特に後者は21世紀に入って爆発的に発展している分野で、本研究室でも近年精力的に研究しています。また、グラフに付随する行列を確率変数とみなすことにより、量子確率論 (非可換確率論) との関連も生じます。この立場から、グラフの族に対して(量子)中心極限定理等の類似物を考えることも興味深いテーマです。
[Paley グラフ $\mathrm{Paley}(q)$ とその補グラフの冪の正規化した同時スペクトル分布]
符号やデザイン等を含む種々の離散数学的対象は、適当なグラフ (association schemes) の頂点集合の部分集合とみなすことができ、この観点からこれらの対象を研究します。符号の場合であれば、例えば「長さ $n$ かつ最小距離が $d$ 以上の$2$元符号の最大サイズ」を考えます。このような研究の潮流は1973年の Delsarte の学位論文に端を発するもので、代数的グラフ理論に加えて線形計画法等の最適化の手法を駆使します。近年は有限幾何や極値集合論の研究にも活用されています。
本研究室を志望される方は、何はともあれ線形代数学をしっかり学んでおいて下さい。特に、「実対称行列の対角化」は代数的グラフ理論の全ての基礎になります。上で述べたトピックについて、いくつか参考文献を挙げます:
なお、「代数的でない一般のグラフ理論を学びたい」或いは「代数学の基礎をしっかり勉強したい」といったご相談にも乗りますので、お気軽にメールでお問い合わせ下さい。
瀬野 裕美 (Seno, Hiromi)
教授
seno.math.is@
本研究室では、生命現象や社会現象に関する理論的問題に関する数理モデルの構築とその解析結果による考察、および、モデリングの数理構造の理論を研究の主眼としています。
数理生物学は、学際分野であり、その研究のスペクトルは、数理科学から生命科学にわたる広い裾野をもちつつ発展してきました。この分野における数学的解析は数学や物理学といった数理科学の基礎理論に基づいた応用といえますが、その発展に伴って、様々な生命現象に対する数理・理論的アプローチの応用性はますます広がりつつあるといえます。しばしば、実際の野外観察・観測あるいは実験が不可能であるような対象であっても、理論的な数理モデリングによる(思考実験的)研究が可能であり、その結果が、実際的な野外観察・観測や実験の指針として役立つ可能性もあります。また、理論生物学的な問題を数理モデル解析によって議論することは、生物学的理論の体系化に役立つばかりでなく、生命現象の新しい研究を生み出す可能性をも秘めています。カオス理論のように、数理生物学的な数理モデル研究が、数学や物理学の理論的研究の発展に寄与してきた例も少なくありません。
本研究室では、現実の生命現象や社会現象の特性を科学的に議論するための問題点を明らかにしたり、問題提起を行ったり、あるいは、研究の展開の礎となるような、数理的・理論的な生命現象・社会現象の研究のための数理モデル解析を行うことを目指しています。対象とする現象に関する問題に関して主要と考えられる要因を選択的に抽出し、可能な限り単純な構造をもつ数理モデリングによって、科学的な(定性的)議論を行うための数理モデル解析、あるいは、より具体的な問題に関する数理モデリングに発展させることのできるような基礎数理モデル解析、または、理論の体系化に関わるような数理モデル解析に取り組んでいます。
本研究室の研究においては、対象とする現象の如何なる理論的課題を取り上げるか、その問題を如何に数理モデルとして構成するか、その問題を考察するために構成された数理モデルに関して如何なる数理的解析を行なうか、数理的解析によって得られた結果を如何に生命科学的・社会科学的議論として取り上げるか、ということが重要な観点となります。とりわけ、現象の本質を捉える、できる限りシンプルな数理モデルの構築とその解析によってどこまでの議論が可能か、という視点で、数理モデルの数理的構造における合理性(現象に対する仮定と数理的構造の間の論理的整合性;数理モデリングの適切性)に関わる研究テーマに取り組んでいます。
数理モデリングとは、一言で述べるなら、現象に関する仮定や仮説を数理的に解釈もしくは表現することによって数理モデルを構築する過程を指します。 生命現象や社会現象に関する仮定や仮説の適切性評価や意味解釈をするためには、生命科学的・社会科学的な知識とセンスが要求されます。一方、数理的な解釈や表現には、数理的な知識とセンスが要求されます。すなわち、数理モデリングは、生命科学的・社会科学的知識だけ、あるいは、数理的知識だけでは不可能であり、それらの二つが相まって成立する過程です。 しかし、生命科学的・社会科学的知識と数理的知識がそれぞれ揃ったとしても、必ずしも、適切な数理モデルを構成することはできません。 これは、生命科学的・社会科学的知識と数理的知識を、数理モデルの構成という目的の下に適切に統合する独特な過程が必要だからです。
ミクロからマクロまで広いスケールの生命現象や社会現象に視野を拡げて研究課題として取り組んでいます。たとえば、数理モデリング、数理モデル解析による次のような数理生物学的研究課題に取り組んできました。
個々の研究において、構成し、解析してきた数理モデルは、確率過程、差分方程式系、微分方程式系などを応用した、いずれも基礎的なものであり、必ずしも直接にデータ解析に利用することを目的としたものではありませんが、質的な議論を通して科学的な論点を明らかにするとともに、より発展的な数理的研究、現象分析により応用的な数理モデルの構成における基盤を提供することを目標としています。
本研究室では、生命科学的・社会科学的知識と数理的知識を、数理モデルの構成という目的の下に適切に統合するという独特な過程に重心があり、学んでゆく内容も、生命科学・社会科学や数学の知識そのままを学ぶだけではなく、生命科学的・社会科学的知識・センスや数理的知識・ センスを数理モデリングという観点から捉えるという点がかなり特徴的です。それは、数学とも生命科学・社会科学とも関わる、まさに学際的、応用数理的な観点です。生命現象や社会現象に関わる研究においても、応用数理的、数理生物学的研究が意義をもつ分野、テーマはどんどんと開拓されており、このような数理モデリングの感性を持つ研究者の育成を目指すことは、科学発展にとって十分に実りあるものと考えています。より詳しくは、ウェッブページをご覧ください。
(B01-1) 原田研究室では、組合せ論的符号理論と組合せデザイン理論やこれらに関係する組合せ構造やそれらの応用についての研究をしています。
符号理論は、誤りが発生する通信路において、いかに効率よくかつ信頼性が高い情報伝達を行うことが出来るかを研究する分野で、数学、情報科学、実用化技術と、様々な立場での研究が広く行なわれています。
組合せ論的符号理論は、通信路の数理モデルにおいて符号化の部分に現れる組合せ構造としての誤り訂正符号(error-correcting code)を組合せ論な手法で研究を行う符号理論です。本研究室では、主に、有限体上の線形空間において色々な意味での“良い”部分空間の構造の研究を、組合せ論的な手法にて行っています。しばしば計算機による計算も重要な役割を果たします。自己双対符号(self-dual code)と線形補符号(linear complementary code)の2つのクラスを主な研究対象としています。
符号が情報通信を起源にもつ組合せ構造であったように、様々な分野において組合せ論や離散数学は色々な形でその有用性を提示してきていると思われます。組合せデザインもその一つであり、実験計画を起源にもつ組合せ構造です。組合せデザインの研究での基本的な問題を一言で説明すると、全体をよく近似する“良い”部分集合を見つけることであり、本研究室では、良い組合せデザインの構成や符号など他の組合せ構造との関連を意識した組合せデザインの研究を組合せ論的手法で行っています。組合せデザインの研究においても、理論の構築とともに計算機による計算もしばしば重要な役割を果たします。 対称デザイン(symmetric design)とアダマール行列(Hadamard matrix)の2つのクラスを主な研究対象としています。
符号理論や組合せデザイン理論は、理学部・教育学部の数学系の学科などで学んでいる学生さんには馴染みが薄い分野かもしれません。大学院で新たに、情報通信に現れる組合せ構造である誤り訂正符号や実験計画を起源とする組合せ構造である組合せデザインの数学的(組合せ論的)な研究をやりたい学生さんを歓迎します。工学部の情報系の学科で学んでいる学生さんには符号理論は馴染みがある分野だと思います。数学的(組合せ論的)な立場で符号理論の研究をやりたい学生さんを歓迎します。
本研究室に進学を希望する学生さんは、まずは線形代数学をしっかり学んでいて欲しいです。さらに、代数学(群・環・体)の基礎について学んでいてくれると入学後に学びやすいはずです。(数学では珍しく)有限な対象を研究しているので、計算機(コンピュータ)による数値計算の経験があればさらに学びやすいです。
進学において、ご質問などありましたら、どうぞお気軽にメールでお問い合わせ下さい。
(B01-2) 船野研究室では、リーマン幾何学、スペクトル幾何学、バナッハ空間・距離空間の幾何学などの周辺分野を研究しています。
リーマン幾何学には空間の曲がり具合を表す概念である断面曲率、リッチ曲率、スカラー曲率があります。これらの曲率の下限の条件を課すことは、考えている空間をわかりやすい空間とある意味で比較することに対応することが知られています。比較幾何学ではこれらの比較を用いて考えている空間の幾何学的性質を調べます。バナッハ空間論ではタイプ・コタイプといった上の比較とは別のユークリッド空間との比較があります。近年これらの比較の概念は距離空間へと拡張され、ワイルドな空間の取り扱いが可能となってきました。近年凸幾何学における種々の方法がリッチ曲率が下に有界なリーマン多様体に拡張されてきており、凸幾何学とリッチ曲率の比較幾何学が密接に関係していることが示され始めてきました。今後の発展が期待される分野です。
ラプラシアンは最も基本的な二階楕円型偏微分作用素であり、偏微分方程式だけではなく幾何学でも様々な場面で現れます。熱方程式、波動方程式、シュレディンガー方程式などの解はラプラシアンの固有値並びに固有関数を用いて表されることが知られており、これら方程式の解の構造を理解するのにラプラシアンの固有値・固有関数の研究は大切になります。また曲率・体積・閉測地線の分布・等周問題などなど幾何学的量とも関係しています。離散的な取扱いにおいては、効率の良い経済的なネットワークの構成、クラスタリングの研究などの応用分野とも関係しています。近年では最適輸送理論や代数的位相幾何学などといった一見関係のないような分野の道具を駆使して研究を行っており新たな発展を目指しています。多様体を曲面のファミリーで掃き出し面積のミニマックスを考えると幅と呼ばれる幾何学的な量が現れますがこのような他のミニマックス理論の研究にも興味を持っています。
船野研究室では基本的に何を研究しても自由です、私のやってきた研究に沿う必要はなく自発的に色々なことに興味を持って勉強したり研究会やセミナーで話を聞いたりして自分の道を模索してみてください、迷った場合は遠慮せずに気軽に相談してください。幾何学といっても現在は幾何学のみで研究するのは難しく、解析学、確率論などの幾何学以外の分野も同時に勉強することになるかと思います。これら幅広い分野を効率よく勉強するには(優秀な)他人の話を聞いたり、相談・質問したりしてお互い協力し高め合うことが大切となります。遠慮せずにどんどん(数学の)相談・質問をしましょう!また私の研究室を選びたい場合は受験前になるべく早く私に(メールで)コンタクトをお願いします。
内藤 貫太 (Naito, Kanta)
教授
knaito@
根元 多佳子 (Nemoto, Takako)
准教授
nemototakako@
(B02-2) 根元研究室では、数理論理学、特に構成的数学などの分野を研究しています。
何かの定理を証明するときに、何をしてよいのか困ったことはありませんか?数学の定理の証明は「公理」から「推論」を組み合わせて導きます。公理とは証明抜きに真とされる仮定で、例えば群の公理は群が満たすべき条件をあげて、どういうものが群であるか規定します。「推論」とは何から何を帰結してよいのか規定する規則です。例えば「『AならばB』で、さらに『A』であるとき『B』と帰結してよい」三段論法は推論規則の一つです。数理論理学では、論理や証明、モデル、集合、計算といった数学で普段当たり前に使うものを対象として解析しています。私の研究はざっくりいうと「どんな公理とどんな推論規則を許したときに、何が帰結できるのか」を明らかにすることを目的としています。
普段はあまり意識することはないと思いますが、通常の数学の大半の定理ははZFC集合論と呼ばれる集合論の公理から古典論理と呼ばれる推論規則を使って証明されます。しかしこれが唯一の正しい公理と論理ではありません。例えば、真なる命題とは証明が与えられたものである、というモチベーションをもとに推論規則を組み立てると、未解決問題に対しては「AまたはAでない」が成り立つとは言えません。計算機で証明が書けるものを真と考えても同様のことが言え、このことは実際に自動証明や定理証明支援系の理論的なバックグラウンドになります。このように通常と違う推論を用いて数学をやってみると、普通の数学と大分違った世界が見えてきて、とても楽しいです。
数理論理学や構成的数学を学部で学んだことのある人は少ないと思いますが、証明やモデル、集合などが何なのか気になる人を歓迎します。研究テーマは各自の興味に沿って決めていきます。興味のある方は、メールにてお問合せください。
[2分木のパスの存在からの論理原理の証明]
[構成的逆数学による数学の定理の分類]
荒木 由布子 (Araki, Yuko)
教授
yaraki@
統計数理学分野・荒木研究室では、統計数理学・データ解析分野の教育・研究を広くカバーしています。
近年の医療データ・人々の行動データ・経済データなどから、新しい価値をみいだし活用するAIや数理データサイエンスは飛躍的な発展をとげています。その発展を基盤・理論から支えるのが統計科学・統計数理学です。また逆に、AIや数理データサイエンスから得た発想・手法を活かして、統計科学・統計数理学の従来の課題を一気にブレイクスルーする新しいタイプの統計モデリングの構築もめざしています。主な研究分野は以下のとおりです。なお、詳細は研究室のWebページもご覧ください。
私たちの世界に存在するさまざまなデータは、規則性と同時に不確実性を有しバラツキます。この規則性と不確実性を、数学という科学の共通言語を使って把握し、データから効率的に有益な情報やパターンを抽出する学問が統計科学・統計数理学です。荒木研究室では、近年の高度に発展した測定技術で観測・測定され蓄積された、時間や空間の推移に伴い変化する複雑多様な構造をもつデータから、情報量の損失を最小限に抑えながら有益な情報を抽出するための、新たな統計モデルの開発を理論的・応用的両側面から研究しています。推定したモデルを評価するための新たなモデル選択規準を導出し、数値実験により手法の有用性を検証しています。有用性が検証された統計モデルは実データへ適用し、新たな知見の獲得を目指します。
Longitudinal data of urinary cortisol
concentrations
and the estimated
75th quantile regression curve.
(Tanabe, Araki et al. 2022)
(左)経時的マイクロアレイデータ (Spellman et al. 1998)
(右)Expressions of genome-wide genes in the yeast genome using cDNA microarrays under CDC15 based synchronization. (Araki et al. 2009)
関数データ解析とは、各個体や対象に対して、離散点で経時的・空間的に観測・測定された一組の複雑な構造を有する高次元データ(p>>n)を滑らかな関数として捉え、関数化し次元縮小を行い、その関数化データの集合から有効に情報を抽出するための統計モデルの構築からなる一連の手法です。現在最も注目を集めている解析法の1つで、自然科学の様々な分野のデータに加え、 IoTデータ、MRI画像解析や運動機能解析データなどもターゲットです。
超高次元データの解析では、未知パラメータ数pが多大である一方、個体数nが限られているため、従来の手法では適切な次元縮小と安定した汎化能力の高い統計モデルのパラメータ推定が困難でした。その結果、諸科学の高次元データを扱う分析現場では、部分データや平均値による解析をはじめ、仮定の検討のない従来の統計モデルの適用など、結果の追求が最優先されている場合があります。また現在多用されている機械学習の各手法において、統計科学の観点からみると理論的基盤の確立と固有の評価指標の開発が必要なものも散見されます。
関数データ解析は、p>>n問題で従来の解析法が適用できない超高次元小標本データや複雑な非線形構造を有する高次元データでも次元縮小が可能で、さらに個体間で観測点数や位置が異なる場合でも適切な分析を可能とします。例えばArakiら(2019)は、関数化において、各個体(対象)に対して多数の離散点で測定された一組の高次元データの次元縮小のため、基底展開とスパース主成分分析による合成基底関数展開法を提案しました。さらに次のステップである関数データ解析に基づく統計モデル開発では、関数データを使って多変量解析を高次元データへ拡張した、関数多変量解析モデルを新たに構築しています。このとき、モデルのパラメータ推定を各段階で行う「2段階法」(推定方程式が簡便で計算量が少)と、2段階のパラメータを同時にベイズ推論により推定する「ジョイント法」(観測誤差・個体間変動が大きい場合にも有効)があります。
荒木研究室では、「2段階法」と「ジョイント法」を併用し、Jensen-Shannon情報量やベイズ型情報量に基づく情報量基準を構築し、モデルの設定・推定・評価を行う理論体系の確立と、関数データ解析による非線形多変量解析の体系化をめざしています。
Composite basis functions
(Araki and Kawaguchi 2019)
ヒトのデータの不確定性を数理的に捉え、病気の診断や治療に関する決定を科学的根拠に基づき行うためのバイオ統計学の実践的研究に、学外の教育・研究機関や医療機関と研究者レベルで連携して取り組んでいます。
従来の健康管理制度による身体・血液検査値データや、近年の急速な観測・測定技術の進歩に伴い観測されるようになったNIRSやMRI画像の高次元データのための統計モデルの開発・分析を行っています。これらは例えば脳梗塞の危険予知などのために新しい知見を得ています。また長期・多項目について測定されたヒト個人の身体ダイナミックス・データを情報量を失うことなく関数データ化し、その関数データに凸クラスタリング手法を使って求めた群予測と個体の属性データ、身体ダイナミクスの関数データとともに生存時間解析モデルに組み込む新モデルの開発も行っています。
乳児コルチゾール分泌データ
(Tanabe, Araki et al. 2022)
Female: BMI trajectories
修士研究として、皆さんが卒業研究として取り組んだ題目をさらに発展させることも可能です。
統計モデル・関数データ解析・機械学習
バイオ統計学
学習科学・スポーツデータ解析・その他
研究テーマは各自の興味に沿って決めていきますので、能動的な研究姿勢が求められます。道のないところに自ら道をつけていく、といった意気込みを持った方を歓迎します。統計科学の研究に興味を持った方は、メールにてお問い合わせください。